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日刊 温暖化新聞|エダヒロはこう考える

20080224

温暖化への適応策も進める必要がある

地球温暖化の進行に伴い、さまざまな影響が日本・世界の各地から報告されています。地球温暖化による影響を軽減するために取り組まなくてはなりませんが、この取り組みは「緩和策」と「適応策」の二つに分けられます。

「緩和策」とは、地球温暖化の主な原因である温室効果ガスの排出を減らし、大気中の温室効果ガス濃度をこれ以上増やさないことで温暖化の進行をとどめようとする取り組みです。根本的な対策といえるでしょう。しかし、その効果が現れるまでには、時間的な遅れがあります。

「適応策」は、ある程度の温暖化は進んでしまうという前提で、温暖化する気候に人や社会・経済を調整・適応させて影響を軽減しようという取り組みです。温暖化に伴う気温や海抜の上昇といった“症状”に対する対症療法的な取り組みとも考えられます。

たとえば、今後の温暖化を考慮に入れた上で、建物のバルコニーや日よけ、自然換気などを設計し施工することは、実現可能性と効果の大きい適応策です。また、温暖化による渇水等、水資源の減少の予測に対して、節水器具を導入したり漏水管理をするなど、温暖化による水不足対策を施すことができます。

かつては、「適応策を考えることは温暖化を容認することになってしまう。緩和策だけを考えるべきだ」という意見もありましたが、地球温暖化のさまざまな影響が観測されている現在、根治策に取り組みながらも、その間にどうしても進んでしまう温暖化に対する適応策も必要だという認識が広がってきました。

日刊温暖化新聞を見ていても、「適応策」に言及した記事が増えてきています。「温暖化ニュース」のページの右下にある「検索」に、「適応」と入れてみると、記事の一覧が出てきます。見出しを見るだけでも、感じがわかると思います。

日本でもすでに温暖化の影響は各地に顕在化しつつあります。1980年代以降、気温35度以上の日数が増加しており、豪雨の発生回数も過去30年間で増加傾向にあります。過去50年間で、サクラの開花が全国平均で4.2日早まっている一方、カエデの紅葉日は、1953年から2000年までに約2週間遅くなるなど、一般の人々でも「何かおかしい」と感じるほど、四季の移り変わりがずれつつあります。

生態系への影響も報告されています。豪州など、熱帯・亜熱帯地域に住んでいるセアカゴケグモが日本でも見られるようになったり、従来、南日本で見られていたナガサキアゲハが近畿地方でも見られるようになるなど、分布が北上しているのです。また、海の中では、大規模な白化現象によりサンゴ群集面積が減少しつつあります。

農業への影響も大きくなりつつあります。日本人の主食であるコメも、平均気温の上昇によってカメムシなどの害虫被害や高温障害(白未熟粒など)が発生するなど、品質の低下が広がっています。特に本州の南にある九州では、一等米の割合が2001年には72%だったのが30%にまで低下しています。全国47都道府県のうち、39県からコメの品質低下の報告が出されています。

果樹研究所が全国を対象にしたアンケート調査を行った結果、全都道府県が「温暖化が原因で発生している果樹に影響を与える現象が少なくともひとつはある」と答えており、野菜・花きについては、都道府県が温暖化の影響を受けていると答えています。

このように、すでに現実化している影響だけではなく、今後も温暖化のさまざまな影響が出てくると心配されています。環境省は2008年1月8日、地球温暖化が進むと21世紀末における日本の平均気温が20世紀末に比べて最大4.7度上昇するとの試算を発表しました。国立環境研究所では、今後降水量はほとんどの地域で増加すると予測しています。真夏日日数(日最高気温が30度以上)と豪雨日数(日降水量100mmを超える)もともに増加するでしょう。

温暖化によって海面が1メートル上昇すると、日本の砂浜面積の90%が消失し、干潟も消失してしまいます。海面が1メートル上昇すると、大阪西北部から堺市にかけて、また東京東部の江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区のほぼ全域が水没するなど、産業地帯や都市部など海岸域に大きな影響を及ぼします。

また、デング熱の媒介蚊(ヒトスジシマカ)の国内生息域が今世紀末には北海道まで拡大するなど、健康面への被害も見込まれています。

農業も大きな影響を被ることになるでしょう。平均気温の上昇により水田や稲からの水の蒸発が約20%増加し、九州の北・中部では潜在的水不足に陥ることが予測されています。りんごやみかんの生産適地の分布が変わったり、トマト、ピーマン、キャベツなどの野菜も、実がつきにくい、日焼け、腐る、キャベツが結球しないなどの悪影響を被るでしょう。

また、高温で発生やすい病気が多発・北上すると予測されています。たとえば、コメでは高温で抑制されるいもち病の危険地帯が北上するのではないかと心配されています。温暖化に伴い、害虫の個体数・発生回数や越冬率も増加することになるでしょう。冬の気温上昇によってネギさび病病原菌の越冬量が増加などするなど、野菜や果樹栽培への悪影響も予測されています。

冬季の沿岸の水温が高くなると、スケトウダラなどの漁獲量が減る恐れがあります。そのほかの水産物についても、温暖化の進行により、現在の漁場・産卵場が消滅してしまうのではないかと心配されています。

これまではほぼ「緩和策」だけに力を入れてきた日本政府も、このような「温暖化が進行してゆく状況」に対していかに適応していくかという適応策の研究や施策の重要性を認めるようになってきました。

なかでも、農業分野ではさまざまな研究が進められており、品種改良や栽培法の研究など、さまざまな適応策が実施・検討されています。農林水産省は2007年6月21日に策定した地球温暖化対策総合戦略に、農林水産業での地球温暖化適応策を積極的に推進することを盛り込んでいます。そして、その一環として、最新の研究開発成果を基に、コメや大豆など13品目の当面の適応策と今後の対応課題
公表しました。

環境省でも、地球温暖化に対する国内での適応策を探るため、2007年10月に専門委員会を新設し、検討を開始しました。同委員会では、2020~30年ごろまでを視野に入れ、食料、自然生態系、防災、水資源、健康、都市生活、途上国支援の7分野で、どのような対策や研究を進めていくべきか、分野ごとに作業部会を設けて議論することになっています。断片的に進められている適応策についての研究について、情報を共有することで、無駄のない適応策を構築することをめざしています。

予測される温暖化の影響のすべてに適応策が可能なわけではありませんが、温暖化がすでに起こっている以上、温暖化した気候の中で社会・経済を維持するための適応策を進める必要があります。

私たちも、たとえばこれから建物を建てるとしたら、今よりも高い気温など温暖化の今後顕在化するであろう影響をあらかじめ考慮に入れたうえで、その設計をすることが大事になってきます。温暖化の影響が顕在化するにつれて、適応策の必要性や要請が高まることは間違いありません。

しかし、たとえば、防潮堤の高さを積み上げることを考えても、適応策にも大きなコストがかかります。私たちの限られた対応能力(資金や人的資源、社会の注意など)を、目の前の解決策だけに資源を投下するのではなく、根本的な緩和策である温室効果ガス削減を強力に進めるためにもしっかり投下するというバランスがいっそう必要となってきます。

そうしないと、最悪の場合、問題が解決されるまえに、資金そのものが底をつき、緩和策も進められなければ、適応策も十分にできなくなるという、「問題のわな」にはまってしまい、にっちもさっちもいかなくなる危険があります。

そうなるまえに、限られた資金や人的資源をどこにどのように投入すべきか--焦らずじっくりと、目の前だけではなく遠くも見みながら、問題構造を把握しながら、考えつつ進めていく必要があります。人智の発揮しどころ!です。

 
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