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日刊 温暖化新聞|エダヒロはこう考える
2010年02月24日
地球温暖化問題に関する閣僚委員会 副大臣級検討チームのヒアリングでの発言録
※プレゼン資料は、このページ下のリンクからダウンロードしてご覧頂けます。
ジャパン・フォー・サステナビリティといいうNGOの共同代表を務めております、枝廣と申します。今日はこのような機会を与えていただき、とてもうれしく思っています。
まず最初に一言申し上げておきたいのは、私たちNGOというのは、たとえば産業界の「経団連」や労働界の「連合」のように、一枚岩の組織があるわけではありません。多様な意見があるのがNGOの強みでもありますので、今日は「NGO代表」ということでお声がけいただいておりますが、私個人、もしくは私の所属しているNGOの意見ということでお聞きいただければと思っています。
今回市民に一番近い立場で呼ばれていると思うんですが、一番お伝えしたいことは、国民のレベルでは――NGOだけではなくて、一般の方も含めて――、温暖化に対する意識と危機感が極めて高まっている。じゃあ、自分はどうしたらいいんだ、どうしたら未来の子どもたちに迷惑をかけないですむんだ、何をやったらよいか?という段階に来ている、ということです。その意味から、今回のロードマップと基本法、これはみんなが大変に待っているものだということを、まずお伝えしたいと思っています。
資料に沿って、まずロードマップについて、それから基本法について、意見を述べさせてもらえばと思います。
最初に、少し懸念しているのは、ここしばらく、温暖化に対する国の取り組みが足踏み状態ではないかということです。鳩山政権が25%を打ち出したあと、実際の動きがなかなか出てこない。その足かせのひとつになりそうなのが、この「条件付きの25%削減」という目標です。
「すべての主要国がやるなら」という条件が付いていると、すべての主要国がやると確認できるまでは動けないということになってしまう。これだと、「今すぐに、何をやったらいいんだ」という国民の危機感、もしくは「行動したい」という思いと、なかなかつながりません。
ですから、条件付きであったとしても、EUのように、たとえば、「誰が何と言っても20%はやります」「みんながやるんだったら30%やります」のような形で、ほかの国を待たないで――それは25%全部でもいいですし、そのうちのたとえば15%とかだったとしても――、国際交渉はともかく、国内向けにはすぐに動けるような目標設定をしないと、動きにくいのではないか。それが足踏みの原因ではないかと思っています。
次に、言うまでもなく、2020年は通過点であって、そこだけを見ていてはいけないということ、それから温暖化だけを見ていてもいけないということです。温暖化について「言ったことはやったけれど、日本の社会がそれでボロボロになりました」というのでは困ります。
少なくとも日本にとって、温暖化以上に切迫しているともいわれるエネルギー問題――化石燃料の枯渇に関する問題と、それから最近、非常に心配なニュースをあちこちで聞くのですが、日本の森林や水が外資に狙われている、外資が買い占めに入っているという話もあります。
ですから、この温暖化対策を通じて、そういった森や水、日本のエネルギー・セキュリティをどうするのかといった大きな視点を持って、基本法なりロードマップを引いていく必要があるのではないかと思っています。
エネルギーについて、参考資料を何枚か付けました。最後の参考資料、日本の化石エネルギー輸入額の推移を見ると、98年~2008年の間に化石エネルギーの輸入で18兆円も余計にお金を使っています。
98年の価格だったら、2008年はどうだったかというのを計算しますと、6兆円ぐらいになります。つまり、18兆円増えているうち17兆円――日本のGDPの3%ほどになりますが――、これは値上がりによるものです。
これからピークオイルが来て、ますます化石燃料の値段が上がっていくと、消費量は増えないのに、どんどん日本は海外にお金を垂れ流さざるを得ないということになります。
ですから、再生可能エネルギーに切り替えていくというのは、単に温暖化対策だけではなくて、日本のエネルギー・セキュリティ、そして国家安全保障上も極めて大事だと思っています。そのあたりを重ねてロードマップを引いていただければと思っています。
もう一つ、事前にいただいた資料で出ていなかったので、もしかしたら杞憂かもしれませんが、適応策について、きちんと述べられていないように思いました。今、CO2を止めたとしても、ある程度の温暖化は進んでしまいますので、それによって起こってくるさまざまな被害に、どのように備えをするか。
たとえば、水害が起こりやすい地域が絶対出てきますから、ゾーニングをするとか、リスクについては少なくても知らせるとか。熱中症も増えるといわれています。1980年代までは、熱中症でなくなる方はせいぜい年間に数十人でした。しかし2007年、熱中症で亡くなった方は1,000人近くいます。このリスクはどんどん高くなっていきますので、こういったことも、きちんと入れていく必要があると思っています。
ロードマップなりビジョンというのは、これは私の言い方ですが、「海から上ってくる太陽」です。どういうことかと言うと、浜辺のどこに立っても、朝日が自分の所に真っ直ぐ来るように、光の道が見えるんですね。つまり、どの業種でもどの立場でも、すべての国民が「そのビジョンは自分に直接関係がある」というふうに、ワガコト化できないと、そのビジョンを一緒にやっていこうとはならないと思っています。
その点で、いただいた資料だけなので、もしかしたら違うかもしれませんが、扱われている業種、もしくは分野が偏っていたり、抜けている所があるのではないかと思います。たとえば、農林水産業からのCO2であるとか、産業部門も、ロードマップの施策を見ると、粗鉱とかエネルギー管理の徹底と書いてありますが、全産業を通じてのさまざまな取り組み、たとえば、モーターの効率化や排熱利用などがあるわけなので、みんなが「自分もかかわっている」と思える形でロードマップを作っていただければと思っています。
もう一つ大事なのは、国民的な意識で「みんなやっていこう」というのも大事ですが、やはり重点分野、たくさん出している所をどうするか、ということです(注:資料には日本の排出量の半分は166事業所から出ている、と書いてあります)。
それから、これまでの「個別製品の普及を目指す」という形ではなくて、これからは社会システムとして、どうやって日本の社会を低炭素化していくか、ということです。個別製品の組み合わせや、そこに人を介在させて、どうしていくか、です。単にエコカーを普及するだけではなくて、それを組み合わせた公共交通とか、カーシェアリングなどを入れていく必要があると思います。
実際、企業の取り組みについていえば、日本は本当に環境技術も進んでいますし、モノづくりの技術も進んでいると思います。それを後押しするような――私が言う立場ではないかもしれませんが――新しい仕組みが必要だと思います。
また、単に意識啓発の時代は終わっていますので、「どうやったらいいのだ」という思いや、「やりたいんだけど、特に市民、国民の場合は、最初に先立つものがない」ということがありますので、そういった障害を取り除いていくのがこれから必要なことだ思っています。
企業のことで言うと、一つの例ですが、住宅の長寿命化によって、消費財からストック型にしていこうとしていますが、今のところ、たとえば不動産の評価が15年でゼロになってしまうとか、不動産に消費税もかかれば固定資産税もかかるとか、建築基準法でも省エネ性能がまったく入っていないとか、こういったところでやりたいことがなかなかできない状況です。
こういった制度上のさまざま問題を、業界、もしくは企業、市民から挙げてもらって、それを省庁横断的に解決していくような、制度を変えていくためのコンシェルジュのチームを、政府内でぜひ立ち上げて、実際のネックを一つずつつぶしていく。そういった活動をしていただきたいと思っています。
家庭での取り組みは、もう意識は高まっていますので、最初の投資が少なくてすむ、ESCO的にあとで融資が返せるような仕組みであるとか、資金を回す仕組みを上手につくれば、かなり広がるのではないかと思っています。
もう一つ、「広げ方の研究」をぜひやっていただきたいと思っています。これは世界にも絶対に役に立ちます。制度があることと、実際に人々がやることは別物ですので、それをつなぐという意味です。
私自身こういう活動をしてきたので――心理学の出身なので――、いくつか参考資料を付けましたが、こういったことをきちんと、社会学者、心理学者、マーケティングの専門家などが入って、どうやって国民に伝えて実際に動かしていくかを考えていく、こういったチームを立ち上げていただきたいと思っています。
それから、常に負担の話になるんですが、今のエコカーや新築のソーラーにしても、負担だけど頑張ってやっているというよりも、それをやりたい、やったほうが得だと思ってやっている部分が大きいのではないでしょうか。投資としてやっている。それは産業界からすると需要で、売り上げになるわけです。
GDP650兆円のうち50兆円は環境・エネルギーで上げると言っておきながら、一方で「国民の負担が大きいから(25%削減の目標は)やめましょう」というようなメッセージが出てくると、国民としてもやはり、非常にやりにくくなります。ですから、実際にやってどうなるのかということと、それから実際にもう、負担していることがいろいろあるんだよということ、それもきちんと伝えていただきたいです。
去年の3月に、一般の主婦を対象にアンケートした結果、きちんと説明すれば、半分以上の人が、お金を払っても――これは固定価格買取制度のアンケートでしたが、わかってくれた、賛成してくれたという結果があります。
先ほど(清水東電社長から)、パブコメでは反対意見が多いというお話がありましたが、私たちが目にしている炭素税や排出量取引の世論調査では、賛成の意見が多いこともたくさんあります。パブコメはどのように取られているか?――今回のパブコメはわかりませんが、同じような意見がたくさん集まってくるということも聞いたことがありますし、実際に何を持って国民の意見として取るのかは、ぜひ考えていただきたいと思っています。
あと、追加で1枚、A4の紙で出させていただいていますが、これは基本法に関してです。先ほど、原子力の話がありましたが、原子力に関しては、日本は地震国でありますので、どうしたって原発がときどき止まってしまいます。そのたびに化石燃料にシフトして、今のように原単位が増えるのでは、安定した温暖化対策ができません。
ですから、今ある原子力をどうするかはともかく、原発を中心にした温暖化対策というのは、極めて安定性に欠けます。それよりもやはり、分散型の再生可能エネルギーを中核に据えていくべきではないかと思っています。
その再生可能エネルギーも、定義をしっかりすることです。水力といっても大型水力が入るのか入らないのかで全然割合も違ってしまいます。その上で適切な、極めて野心的な目標設定が必要です。
そして、そのための制度設計と、早期の実施をきちんとうたっていただきたいと思っています。これは、固定価格買取制度だけではなくて、排出量取引制度にしても、いつまでたっても、やるかやらないのかわからないのでは、なかなかいろいろな準備や投資等もできませんので、どういった形でやっていくのか、いつやるのかということを、きちんと入れていただきたいと思います。
最後に一言だけ。これは先ほどの清水さんと逢見さんとまったく同じ意見ですが、今回のロードマップや基本法に関する議論が、あまりにも閉じられているという印象を受けます。前の自民党政権のほうが、まだ開かれていたかなという気がするぐらいです。
どういった形で国民と一緒に議論してやっていくのか、どうやって情報を出していくのか。みんなを巻き込みながらやらないと、ロードマップを出されても、みんなやる気になりませんので。そこのプロセスは、これからぜひ変えていただきたいと思っています。
以上です。
(2)
(連合の逢見氏の「温暖化対策によって失われる雇用が生じる」というコメントにつなげて)
今の、失われる雇用があるという、産業構造転換に関してですが、基本的に企業や産業というのは、その社会が必要とする限りにおいて存在できるのだと思います。社会が何を必要とするかというのは、時代が変われば当然変わっていく。ですから、企業なり産業は、時代がこれから何を必要とするかに応じて、自分たちを変えてサバイバルしていくものだと思っています。
そういった点で言うと、じゃあ、これからどういう時代で、これから社会が何を求めるのか、それを早く出すことが一番大事だと思います。「来年から変えるよ」と言われたら転換しようがないですから。
たとえばスウェーデンが2005年の段階で、「2020年には石油を使わない国になる」というビジョンを出しました。15年のリードタイムがあれば、企業はそれぞれ、石油業界であっても、転換が図れます。
ですから、もちろん転換時のさまざまなサポートは必要だと思いますが、それよりも先に、何年ぐらいにどうなるんだと、長期のビジョンを早く出すことが、この失われる雇用を最少化して、スムーズな転換につながるのではないかと思っております。
(3)
(CO2多排出国からの輸入に関税障壁を設けるという動きや考えがでてきているという発言に対して)
今、おっしゃったことは、ほんとに大きな課題だと思っています。それは、産業界としての保護貿易という心配よりも、世界全体で本当にCO2が減っていかないと、温暖化は止まらないからです。そういった点で、関税をかけないといけないということは、国外でたくさんCO2を出しちゃっているということですよね。
たとえば具体的にいえば、中国のCO2が今、世界最大ですけれど、その3分の1は、世界の工場としてほかの国が使うものをつくるときに出ている。じゃあ、その中国が出しているCO2は中国が出しているのか、それともそれを買う国が出しているのか、という話になります。今は産業のほうでカウントされていますけれど。
たとえばイギリスの数字を見ていても、国内のCO2は減っているのですが、イギリス人が輸入しているものまで含めると減っていないという調査もあります。ですから、今そこまで議論が行っていないのですが、本当は産業側でカウントするのではなくて、消費側でカウントすべきものだと思います。どこでつくったかではなくて、それを実際に使う所でカウントする。
ですから、もし今のような問題意識で、消費でカウントするような国際的な議論なり国内の議論が始められたら、それは世界に対する大きな貢献になると思います。いずれ世界はそちらのほうに議論が行くと思いますから。
もう一つ、これは少し違う観点ですが、たとえばEUなどを見ていても、EUはたくさんの国が集まって、一つの地域として闘っています。恐らく、この間のCOP15がうまくいかなかった一つの理由が、国連主義の限界であることが明らかになってきた。そうしたときにバイ(2国間)とか、もしくは多国間での多極的な世界になっていくんだろうと思います。
そういった中で日本は、アジアにあって、中国が近くにある。どういった形でそういった国々と組んで、地域として減らしていくか。それをEUのような形で認めさせるということも、可能性として含めて。
日本単独だと確かに世界全体の排出量の4%ですけれど、日本がほかのアジアの国と組んでできることはもっと大きいし、それは世界も待っていると思います。その流れも一つ、大きくあるのではないかと思っています。
(以上)