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日刊 温暖化新聞|エダヒロはこう考える
2010年11月27日
エコを普及するための戦略 中長期ロードマップ小委員会・コミュニケーション・マーケティングWGの発表より
11月10日に第16回中長期ロードマップ小委員会が開催されました。全体のとりまとめに向け、私が座長を務めるコミュニケーション・マーケティング(ワーキンググループ)からも、これまでのWGの成果について発表しました。
その発表内容をお伝えします。マーケティングの観点からエコ戦略を考える!という意味で、メーカー、NGO、自治体をはじめ、エコを普及したい方々、必見です~。ぜひどうぞ!
資料は以下にあるので、見ながら読んでいただけるとわかりやすいと思います。イノベーション普及曲線など、文字では説明しにくいグラフや、発表では触れられなかった詳細もありますので!
コミュニケーション・マーケティングWG報告資料 [PDF 763KB]
http://www.env.go.jp/council/06earth/y0611-16/mat08.pdf
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~
コミュニケーション・マーケティングのワーキングの発表をします。私たちのワーキンググループは、ロードマップを達成するために、非常に大きな役割を果たすべき家庭部門に正面から取り組んでいます。
中間発表から2カ月、一生懸命作業してきましたが、皆さんに良い知らせと悪い知らせがございます。(会場・笑)
悪い知らせからいきます。このままでは、家庭部門のロードマップの目標は達成できないであろうということが、かなり明らかになってきました。良い知らせは、なぜそれが今のままだとうまくいかないのか、何が障壁になっているのか、乗り越えるためには何をしたらよいか、これらがだんだんわかり始めているということです。そのような内容を発表します。
資料の2ページになりますが、もともとこのワーキングの問題意識として、まず普及段階を考える必要があるということです。さまざまなものを普及しようとしているわけですが、下にありますように、イノベーション普及理論でいったときに、今どの段階にあるか、そしてどこまで持っていかないといけないか。これは実は、対象機器によってさまざまに違っています。
見ていただくとわかりますように、高効率給湯器は、あまり意識のない動きの遅い人たちまで対象にしないと、今の目標に届きません。それぞれの段階ごと、どういった対象グループ、どういった機器、そのあたりを細やかに意識づけし、もしくは対策を練っていく必要があります。
3ページですが、もう1つの問題意識は、今のロードマップは、数値目標が示されているもので、この下に書いてあるのを見ていただくと分かるように、夢もロマンもないもので、生活者とのつながりがないというか、これが「ワガコトだ」と思える生活者はほとんどいないのではないかと思います。
実際に、さまざまな導入なり買い替えをしてもらおうとしたときに、買い替えや導入そのものを目的にする人というのは、おそらくいないでしょう。そうではなくて、それぞれの人が実現したい暮らしのイメージがあって、それに資すると思うから買い替え、もしくは導入をするのだと思うと、今のこの数字だけのロードマップではなかなか生活者を動かすのは難しいという問題意識があります。
そのような2つの問題意識から、4ページになりますが、今回のワーキングでは、日本の低炭素社会化を進めていくために、さまざまな調査をしてきました。左のほうに書いてありますが、マーケティングというのは、お客様の声を聞くというところから始まりますので、まず生活者ヒアリングということで、5人×2地域×4グループ、計40人に2時間ずつじっくり話を聞くヒアリングを行いました。そのヒアリングから重要な視点を抽出して、その後、1,000人を対象にインターネットでアンケートを行っています。
それと同時に、このヒアリングから「どうも(現在のロードマップは)ピンと来ない」「自分は一生懸命削減のためにやっているのに、それがロードマップには入っていない」といった声も多数ありましたので、目標達成時の暮らしのイメージをもう少し描いてみようというワークショップを、これは5人×2グループで、
3時間ずつかけて行いました。この内容について、今からご報告をしたいと思います。
6ページになります。対策のそれぞれの機器の普及段階を示したものです。これは先ほど言いました1,000人のアンケートの結果です。地域や年齢など日本の人口分布に合わせた形で1,000人取りましたが、若干、通常よりも導入率が高い傾向がありますので、意識の高い人たちが少し多かったかなとは思います。このグラフが非常に重要なので、説明させていただきたいと思います。
ここで、イノベーターとかアーリーアドプターとかアーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、それぞれ全体の中のパーセントで区分をしています。「実際に買い替えた」という人を見ていただくと、今どこまで行っているかが分かります。
これを見ていただくと分かるように、LEDであるとか省エネ型のエアコン。これは、アーリーアドプターからアーリーマジョリティへの溝(キャズム)を超えていることがわかります。ここまで行くと、かなり広がる可能性があるのではないかということです。
一番下を見ていただくと、左のほうから持ち家の戸建、持ち家集合、借家というふうになっています。大体、日本の人口を見たときに、こういった形になるんですが、どこまで対策が必要かがわかります。そしてロードマップの25%、20%、15%に★を打ってあります。
実際に、エアコンは今かなり普及してアーリーマジョリティの中程まで行っていますが、もしこれがレイトマジョリティまで行かないといけないとすると、借家の人たちにも対策を取ってもらう必要がある。その場合にはいろいろな課題が出てきます。LEDと省エネエアコンの2つはかなり進んでいるけれど、さらに広げるためには手を打つ必要がある、というものです。
一番下に太陽光発電があります。これはまだ導入が少ないんですが、検討中の人たちの割合を見ると、かなり行きたいところまで行っています。ですから、「検討中の人をどうやって行動につなげるか」がここでの大きなポイントになってくるかと思います。
それに対して、一番大変なのが高効率給湯器です。これは目達するためにはかなり普及して、レイトマジョリティの半ばぐらいまで行かないといけないという数字になっているわけですが、現在導入している人、もしくは検討している人は、まだまだそこまで行っていませんので、それをどうやっていくか。
下を見ていただくとわかるように、高効率給湯器は、持ち家・戸建はまだ導入しやすいんですが、集合住宅もしくは借家の人たちまで導入する必要があることが分かります。こういった場合、借家では自分で導入することはできませんので、アパートのオーナーさんへの働きかけなど、別の働きかけも必要になってくることがわかります。
7ページは、それぞれの障壁となっているものを洗い出したものです。ヒアリングから拾ってきました。東京、福井の2地域でそれぞれ、単身世帯、定年後の世帯、そして子育て中を中心とした既婚の女性、というグループです。
見ていただくとわかるように、「初期費用が高額」というのは、おそらくどのグループでも出てくるわけですが、しかしほかの障壁となっているのは、かなりグループによって異なってきます。きめ細かなアプローチが必要だということがわかると思います。
その中でも共通してよく出てきたのが、「現状を変えることが面倒くさい」というものです。「わざわざ計算したり、調べたり、それ自体面倒くさい」という方もすごく多かったですし、それから「もったいない」というのも多かったです。
まだ使えるのに買い替えるのはいかがなものかという抵抗、もしくは罪悪感が非常に強いということもわかります。
もう1つ、これまであまりロードマップで考えてこなかったことだと思うのですが、時間軸をかなり意識しないといけないということが、今回わかってきました。たとえば借家の方々は、たとえLEDのほうが電気代も安くなっていいとは思っても、「自分がアパートを出るほうが先だろうから、わざわざLEDにはしない」と言います。これは1つの時間軸の要素です。
もしくは、定年後の世帯に太陽光発電の話をした時に、「確かにそのほうがいいけれど、自分たちがそんなに長くはここにいないだろうから、入れるのはどうか」「家を継ぐ人もいないし」と。こういった時間軸の要素に、どう対応していくかが、これからのアプローチの1つの鍵かと思います。
8ページは、今度は障壁を機器ごとに見たものです。これもそれぞれ違うものが出てきているのがわかると思います。共通するものも、もちろんありますが。
この障壁を見て、それを乗り越える手だてをマーケティングとして考えれば、ある程度普及を進めることができるかなと思います。たとえば、「知識不足」に対しては、丁寧な説明をする必要があります。
LEDの「CO2削減の寄与度の低さ」であれば、見える化を図る等があると思います。太陽光発電のところで言うと、「初期費用が高額」というのであれば、固定価格買取制度もしくはリースという制度もあるでしょう。もしくは「気象条件への不安」――これは福井などでかなり聞かれた声ですが――、これはたとえば発電量の保証であるとか、発電できなかったときの保険であるとか、1年間試してもらうとか、これもさまざまな手立てが考えられると思っています。
このように、それぞれの障壁ごとに対策をこれから考えていく必要があると思っています。
右下の「エコアパート」というのは、借家の人たちの話を聞くと、もう手詰まり状況なんですね。自分たちで替えたいと思っても、借家ですから、いろいろな設備を替えることはできない。エアコンも付いていて、それを自分で替えることはできない。せいぜい電球の球ぐらいしか替えられないという、やりたいと思っても変えられないという、手詰まり感を非常に感じました。
そこで、別の社会インフラとして、エコアパートという形で、そういった設備を完備したものを造って、「それを選べるとしたら入りますか?」という話を聞きました。こういったところで、家賃との差というのはもちろん鍵ですが、これが解消できるような仕組みができれば、借家の人たちにも対策を、「選ぶ」という形で取ってもらえることがわかります。
もう1つ、エコ家電のところの2番目に出ています「もったいない」というジレンマですね。これは繰り返し繰り返し、出てきました。私たち日本が持続可能な社会に向かおうとするときに、長く大切に使おうというのは、非常に大切な価値観で、これが人々の間に根づいているというのは、ほんとに素晴らしいことだと思います。
ですから、今回のロードマップで買い替えを促進するとしても、それに矛盾したメッセージにならないように、どのように伝えるのか、もしくは、そういった価値観を大切にした上で、どのような取り組みができるか――それを丁寧に出していかないと、このロードマップの数字だけを見て、「まだ使えるものを捨てさせるんですか? それがほんとに環境にいいんですか?」という声は、たくさんたくさん出てきました。
9ページ目は、これは言うまでもないですが、特に設備を替えるといったときには、持ち家か賃貸かでかなり変わってきますし、太陽光発電も1戸建か集合住宅かで変わってきます。
先ほどの6ページの、「ここまで普及しないといけない」という目標達成の数字をここに当てはめてみると、高効率給湯器は、持ち家戸建だけではなく、持ち家集合住宅、そしてさらには賃貸の集合住宅まで広げていかないといけない。とすると、今のような自分の意思とお金で替えられるだけの人たちを対象とした施策では足りないということがわかります。
一方、太陽光発電は、ロードマップの目標は、持ち家戸建のところをカバーできれば十分達成できますので、2020年に向けてはここを対象にすることで対策が進むと思います。
10ページ目は、対策行動の障壁もしくはその行動を取っている理由を、ここでは省エネエアコンを取り上げて、少し細かくご紹介したいと思います。
1,000人に尋ねたうち、「省エネエアコンを買っている」人が353人、「買っていない」人が647人で、それぞれの理由を聞いています。ちなみにアンケートの詳細は、参考資料の7-1にあるので、後で詳しく見ていただければと思います。
採用に至らない障壁を見ていただくと、まず「タイミングじゃない」。「壊れていないし、引っ越しも別にするわけはないし」ということです。もしくは「捨てるのがもったいない」とか、「捨てるときにも大変」とか、あとは「値段」。それから、「今後どんどん値段が下がっていくから、今買わないほうがいい」といった意見もだいぶあります。もう1つは、先ほど言った「借家のために、自分では替えられない」と言った人たちがかなりいます。
こういう人々や障壁に対しては、それぞれの打ち手として、どういった仕組みをつくる必要があるか、どういったコミュニケーションをする必要があるか。もしくは、たとえばエコアパートを認定して、その市場での評価制度をつくる等、社会インフラとしての仕組みも含めて考えていく必要があります。
採用理由は、見ていただくとわかるように、「経済合理性として元が取れる」といったこともありますが、Non-Energy Benefitとして、「家事が楽になる」ということはだいぶ出てきています。この辺のアプローチも大事だと思います。
この辺りを詳しく見たものが、次のページの11ページです。これは機器ごとに共通する障壁を出しています。それぞれの機器ごとの障壁の上位から並べたものです。見ていただくと分かるように「経済性」ですね。「初期費用が高い」という経済性と、「何年で元が取れる」という、その両方の意味合いがあります。「タイミング」については、大体の人は「壊れたら替えるけれど、壊れなかったら替えない」というスタンスを非常に強く持っています。
「もったいない」は、先ほど言ったように、その価値観に沿った形のロードマップのイメージを描く必要があるだろうということです。「借家ないし物理的な制約」に関しては、制度や仕組みを整えることで乗り越えるしかないだろうと思います。
12ページは、実際に採用した理由ですが、これは、それぞれの項目を見ていただいて、後でNon-Energy Benefitに○を付けてみてください。かなりこれが多いんですね。ですから、どういったことをアプローチのなかで前面に出したらよいかという、大事な点がわかると思います。
13ページは、買い替え促進だけではない暮らしのイメージを描こうというワークショップを行った結果です。打ち合わせをしたわけではないんですが、先ほどのマクロフレームともかなり近いイメージが出てきました。今のロードマップに、「今の生活を変えないで省エネ化で減らしましょう」という1つの暮らしのイメージがあるとすると、「暮らしそのものを変えていきたい」というものです。
ひとつは、「シェアする暮らし」です。たとえばグループホームとかシェアハウスとか、キッチンやリビングを共有して、というシェアする暮らしで減らしていきたいというイメージもかなりあります。もうひとつは、「農的な暮らし」で、たとえば食糧やエネルギーはできるだけ自分の所で自給したい、そういう暮らし
の中でどうやって減らしていくかということです。
ざっくりとですが、私が講演先で200~300人の人に手を挙げて、「どれがいいですか」と聞いてみたところ、省エネ積極買い換えが2割ぐらい、シェアする暮らしが3割ぐらい、農的生活が5割ぐらい、という感じでした。これは、聞き方がかなりラフでしたので、もう少しきちんと精査して、国民の描いているイメージを明確にした上で、それに沿った形でロードマップの描き方を考えたいと思っています。
たとえば、省エネタイプの冷蔵庫への買い替えは、3つの暮らしのイメージのどれでも出てきます。でも、冷蔵庫の買い替えが目的ではなくて、「こういう暮らしをしたいから、省エネ型にしよう」という描き方が大事ではないかと思っています。
14ページは、口コミで広げてもらうための「情報ネットワーク」についてアンケートで調べました。見ていただくとわかるように、どういったコミュニティに属している人が行動を変えているか、そういったコミュニティにどういった働きかけをすべきかを考えられます。ネット上とかNGO、NPOですね。
ごみやリサイクルの場合は、町内会のネットワークが結構効くという研究があるんですが、低炭素化に関しては、町内会はまだそれほど効いていない。としたら、町内会ネットワークにはどういう情報を出す必要があるのかを考えることができます。
最後に、言うまでもないですが、意識と行動は相関があります。ところが今、なかなかその意識が高いと言えない状況である、というのが16ページです。いくつか言葉が拾ってあります。「ピンとこない」とか、「よくわからない」といった答えが非常に多かった。
2020年の25%削減を超えて、2050年の80%削減に向けては、こういった人たちも含めたあらゆる層の行動変容が必要とされるとしたら、今のうちからどのような伝え方をしていくか――これも当然考えていく必要があるだろうということです。
最後の2枚は、今お話ししたことのまとめです。きめ細やかな対策とアプローチをつくりながら、2050年に向けての意識啓発のコミュニケーションもしていく必要があると思っています。
以上です。
~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~
このコミュニケーション・マーケティングWGは、他のワーキンググループがこれまで「自動車」「ものづくり」「建築物」「地域」などの分野ごとに取り組んでいるのに対して、新しいワーキンググループです。
この発表のあと、委員の方々からのコメント&質問が寄せられましたが、「新鮮な視点」「面白い」「楽しそう」と。(^^;
「とっても楽しいですよー!」とお答えしました。\(^o^)/
12月末のとりまとめに向けて、中長期ロードマップ小委員会の作業が急ピッチで進められています。並行して、コミュニケーション・マーケティングWGでもできるだけ取り組みを進めているところです。