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日刊 温暖化新聞|エダヒロはこう考える

20080207

バックキャスティング型のビジョンをつくろう

だれもがある変化をつくり出したいと思って、活動しています。温暖化問題にしても、自分の人生にしても、「現状でよい」と思っていたら何も取り組む必要はないでしょう? 何かを「変えたい」から活動しているのだと思います。

そのとき、大事なことがあります。「それが達成できた時に、最終的にどういうところに行きたいのか?」--これを考えることです。ビジョンづくりです。

ビジョンには、大きく分けると二つの作り方があります。
一つのやり方、日本の政府や企業の多くがやっている方法は、「フォアキャスティング」というもので、「現状からスタートする」やり方です。「今、この問題があるからこうしよう」「今、こういう制約があるからこれはできない。だからこれにしておこう」等々、現状立脚で進めるやり方がフォアキャスティング型のビジョンづくりです。

それに対して、ビジョン型の国では「バックキャスティング」という方法をよく用います。今の状況や今の課題がどうであれ、それを一回脇に置いておいて、「すべて思うとおりになったら、どのような姿にしたいのか?」と考えます。

今、何ができる、何ができないではなく、「本当にどうあるべきか」を考えるのが、バックキャスティング型のビジョンづくりなのです。そうして、「理想的なあるべき姿」をつくってから、現時点を振り返り、その間を埋めていくための取り組みや政策を進めていきます。

私が通訳をしていたころ、アジア各国の環境担当者が集まる会議がありました。その会議で、中国の代表者がこのような発言をしました。「私たちは、50年後の中国をこういう国にしたいと思っている。ですから、今この施策を打っているのです」と。

彼らには50年後の中国が見えている。少なくとも見ようとしている、そしてそのために今この施策を打っているのだ--通訳しながら、私は感動しました。これがバックキャスティングです。

ちなみに、この会議で日本から(少なくとも私が通訳をしていた間は)、そういった発言はありませんでした。日本からの発言のほとんどは、「今われわれはこの問題を抱えている。この問題を乗り越えるために、この施策を打っている」というものでした。

その問題を乗り越えて、次の課題を乗り越えて、乗り越えて、私たちをどこに連れて行ってくれるのか?――それはまったくわからない。おそらくそのようには考えていなかったのでしょう。日本の政策はこういうことが多いような気がします。

日本政府の温暖化に関する現在の目標は「1990年比6%減」ですが、他国ではどのような目標を立てているか、ご存じでしょうか? 少し紹介しましょう。

フランス:「2050年までに75%削減」
英国:「2050年までに60%削減」という目標を80%に強化しようとしています。
ドイツ:その前段階として、「2020年までに40%削減」
米国カリフォルニア州:「2050年までに80%削減」
ヒラリー・クリントンら米国大統領候補も、「2050年までに80%削減」などの高い目標を設定しています。

その根拠は、「温暖化BASIC」に書いたように、またこのウェブサイトの「72/31」が示しているように、地球の森林生態系と海洋は年間に合計31億トン(炭素換算、以下同じ)の二酸化炭素を吸収することができますが、私たち人間は化石燃料(石油、石炭、天然ガス)を燃やすことで世界全体で年間72億トンの二酸化炭素を大気中に出している、ということです。

つまり、温暖化に関する「あるべき姿」は、現在の72億トンの排出量を31億トン以下にすることです(海洋の二酸化炭素吸収量が減ってきている、という科学者からの心配な報告もあり、その場合は、さらに減らす必要が出てくるでしょう)。途上国での今後の人口増加や経済成長を考えれば、先進国は、排出量の70~90%を削減する必要があります。

今できるとか、できないとか、そのための技術があるとか、ないとかではなく、2050年には70%減らさなければ、温暖化は手のつけられない状況になるのです。大きな変化が求められる時代には、現状の延長線上に将来像を描くことはできません。あるべき姿としてのビジョンを描く「バックキャスティング」のビジョンが必要です。それを「あるべき姿」として、そこから今を振り返って、「では2050年に70%減らすには今何をすればいいのか?」を考える。これがビジョンを打ち出すということです。

しかし、残念ながら今の日本の政府や経済界はそうは考えていません。「炭素税を入れると国際競争力がなくなる」とか、「排出量取引は規制だからだめだ」とか、「だから今できるのはこういうことだ」という、現状に積み上げるかたちでしか目標が出せません。究極的にめざす場所がわからずに、どうやって進んでいけるというのでしょう? 結局、かかる時間とフラストレーションだけが大きくなってしまいませんか?

しかし世界では、そのような日本を尻目に、大きな変化が始まりつつあります。社会は、新しいビジョンや目標が設定されると、その達成のために、社会のさまざまなシステム(しくみやルール)を変えていきます。したがって、現在、温暖化問題を軸に、さまざまなルールが変わりつつあります。世界経済のルールも、国際競争力を規定するルールも、従来とは異なるものになりつつあるのです。

たとえば、これまでなかった(考えられなかった)炭素に価格がつくようになっています。炭素税や排出権取引は、炭素の排出に対し価格をつける手法です。

(炭素税や排出権取引を「いかに行うか」という方法論はさまざまにあり、現在のしくみに問題点があるのも事実ですが、「価格をつけることで人々や組織の行動を変える」という原理原則が明らかな限り、方法論は改善していくものであり、現在のやり方に問題があるからといって「やるべきこと」そのものを否定することにはつながらないと考えています。

ちなみに、世界で排出権取引が主流となりつつある理由は、自主的取り組みや意識啓発活動に比べて、「量のコントロール」ができる手法だからです。世界や国の総排出量の上限(キャップ)を定め、そのキャップ自体を下げていくことで、総量を実際に削減することができます。一方、自主的取り組みや意識啓発活動は大事な取り組みですが、それだけで目標を達成できるかどうかは「やってみないとわからない」ということになり、結果のコントロールはできません)

米国でも、排出権取引をベースとした大幅な削減を義務づける法案がいくつも出され、遠からず成立するだろうとみられています。これらの法案には、「米国で成立したら、同じことを貿易相手国にも求める」という条項が入っていることが多いと聞きました。中国を主なターゲットとしたものですが、もちろん日本を含め、他の貿易相手国にも適用されると考えられています。

2005年1月に始まり、すでに欧州の排出量の半分をカバーして行われている「EU域内排出量取引制度(EU-ETS)」と、米国や他国の排出量取引制度は、遠からず連動して、国際的な排出量取引市場を形成すると考えられています。

日本の企業は、欧米のように、炭素税も排出権取引もない状況(つまり、炭素に値段がついていないので、炭素を削減しても何の儲けにもならず、持ち出しになるだけ)で、よくこれだけがんばっているなあ、といつも感心しています。そんな個別企業の自主的な努力を後押しする社会的なしくみやルールがあれば、どんなによいだろう!と思います。

今後、温暖化をめぐって、ますます世界の動きが加速することでしょう。そのときに、日本企業が国際競争力の点で苦労することがないよう、先手を打って新しい時代のルールを取り入れ、ルールをつくり出す側に回っていくことが、日本にとって、とても重要なことではないでしょうか? 

「世界の趨勢を見るに、洞爺湖サミットの議長国としては数値目標を出さないとまずいようだ。どのあたりの数字なら、省庁や業界団体などは飲んでくれそうか?」という後ろ向きの動機や方法でビジョンを出そうとするのではなく、「国の将来を考え、国民の幸せを考えると、そもそもどうあるべきか?」というバックキャスティング型のビジョンを作る。そして、そのビジョンの実現のためにルールを変え、望ましい方向に社会を動かしていく。――温暖化問題をきっかけに、もし日本がそういった力をつけていくことができるとしたら、日本にとって「温暖化は大きなチャンス」になりえることでしょう。

(2008年2月7日)

 
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