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日刊 温暖化新聞|エダヒロはこう考える
2009年03月09日
自然エネルギーを普及するには?
温暖化を考えても、化石エネルギーの枯渇や将来にわたっての値段上昇を考えても、自然エネルギーを広げたい!と思いますが、そもそも、自然エネルギーを普及するための方策には、どのようなものがあるのでしょうか?
環境省の研究会が出した「低炭素社会構築に向けた再生可能エネルギー普及方策について(提言)」にわかりやすくまとまっていましたので、抜粋してご紹介します。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/conf_re-lcs/rcm.html
~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~
まず、再生可能エネルギー電力政策については、我が国や欧米諸国で導入されている代表的な普及方策として、導入補助金制度、RPS 制度、余剰電力買取メニュー、固定価格買取制度(Feed-in Tariffs, FIT)が考えられる。それぞれの特徴は以下のようにまとめることができる。
・導入補助金制度
政府が再生可能エネルギーの導入コストの一部を補助する制度。初期の導入コストが割高な段階において、その価格差を直接的に補填するものとして有効である。他方で、年度毎に拠出可能な補助金総額には上限があること、制度がいつまで継続されるかが不明であること、制度運用のための行政コストがかさみやすいこと等の課題がある。
・RPS 制度
政府が電力会社に対して一定量の電力を再生可能エネルギーにより供給することを義務づける制度。市場を活用し、再生可能エネルギー間のコスト競争を促すことで、費用対効果の高い導入拡大を実現することができる。他方で、技術水準やコスト水準に格差がある各種の再生可能エネルギーが同一の競争環境にさらされることから、相対的に導入コストが高い再生可能エネルギーの導入が進まないと
いう特徴があるほか、買取価格を将来にわたって予測できないことから投資回収年数が定まらない。
・余剰電力買取メニュー
自家消費ができない余剰電力を、電力会社が自主的に一定の金額で買い取る取組。固定価格買取制度に類似した効果がある。他方で、現在日本で行われているやり方はあくまでも電力会社の自主的な取組であるため、長期的な買取が制度的に保証されていない。
・固定価格買取制度
再生可能エネルギーによる発電電力を電力会社が一定の金額で全量買い取る制度。投資回収年数が予測できることから、再生可能エネルギーへの投資を加速させる。他方で、制度設計の重要な要素が買取価格の設定にあり、価格の設定が低すぎる場合は導入促進効果が低く、高すぎる場合は導入に供給が追いつかず導入コストを乱高下させるおそれがある。また、技術開発によるコスト低減や普及ペースに応じ、買取価格を定期的に見直すことが必要である。
なお、これらの制度のうちRPS 制度と固定価格買取制度については、EC 委員会やIEAにおいて各国の再生可能エネルギー電力の導入事例に基づいた詳細な分析が行われており、ドイツやスペインで太陽光発電の導入拡大を実現し世界各国でも採用が相次いでいる固定価格買取制度は、特に太陽光発電のような導入コストの高い技術に対して導入促進効果が大きくかつ効率性も高いという分析結果が示されている。
~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~
この4つの方策のうち、日本では「導入時の補助金」「RPS制度」「余剰電力買取メニュー」がおこなわれてきたことがわかります。
個人でも企業でも「太陽光発電がいいことはわかっているけど、元がとれないとやっぱりできないよなー」ということ、多いでしょう。通常だと、元をとるのに30年ぐらいかかるという計算があって、「ソーラーパネルって、そんなにもつの?」という話になってしまいます。
どのくらいでモトがとれるか(投資の回収期間)と同じく大事なのは、「長期的に先が読める制度か」ということです。電力会社の自主的な取り組みとして「余剰電力をいくらで買いますよ」と言っても、いつまでそれが続くか、買取価格がどう変わっていくかがわからなければ、「投資」はしにくくなります。
普及の方策とは、「投資を広く大きく呼び込む」ためですから、そのために役立つ制度として、投資回収期間が予測できる固定価格買取制度はより有効であると考えられます。
経産省が「固定価格買取制度の導入」を発表しました。「導入しない」に比べると大きな一歩ですが、「実効性のある制度設計」が次のチェックポイントです。
制度設計で、私が大事だと思っているポイントが5つあります。
(1)全量買い取りか、余剰電力の買い取りか
全量買い取りの場合、ソーラーパネルからの発電は全量買い取り、その屋根の下で電力を使う人は、電力会社から通常通り購入することになります。
余剰電力の買い取りの場合、「ソーラーパネルをつけられる」+「そこで電力を消費する」一戸建てなどが対象となり、発電する電力から消費する電力を引いた分を買い取る形になります。
私は「全量買い取り」のほうがよいと考えています。全量買い取りでしたら、マンションや工場、オフィスビルなど、「発電設備の所有者=電力の消費者」が成り立たない多くの場所でも、実施することができるからです。そのほうが広がりますし、「なぜ一戸建ての人だけ」という不公平感も生じにくくなります。
(2)国民の負担額と投資回収期間のバランス
「多めに負担する代わりに、ソーラーパネルの元が取れる期間を短くして、普及を後押しする」か、「ソーラーパネルの元が取れる期間を長めにする代わりに、負担額を減らして負担感を減らす」か、ということです。
環境省の案では、「月260円/世帯の負担で、回収期間を約10年にできる」というものでした。
経産省の案では、「月100円/世帯の負担で、回収期間は約15年」との報道でしたが、もっとかかるのではないかという試算もでているようです。
ちなみに、固定価格買取制度のお手本として出されるドイツでは、国民の負担は月に約230円/世帯で、回収期間は10年だそうです。やっぱりこれぐらいの負担があったからこそ、これだけのスピードで広がっているのではないかと思います。
急激な普及のためには回収期間を短くする必要があり、そのためには負担を大きくする必要があります。普及のスピード度と負担感のバランスをどこでとるか?
私は回収期間は10年ぐらいにするほうがずっと効果的で、長期的に国民の負担も減ると考えています(早く自然エネルギーが広がるほうが、化石燃料の輸入コストやCO2排出に関わる費用も減りますから)。
(3)太陽光発電だけか、他の自然エネルギーも含めるか
現在日本は太陽光発電に力を入れることを謳っていますが、自然エネルギーは太陽光発電だけではありません。それぞれの地域にあった自然エネルギーを普及拡大していくためには、太陽光発電だけのための制度ではいけない、と考えています。
(4)価格の確実性
投資をするときに、どれほどの期間その価格が保証されているかは、とても重要です。いつ何時、価格が変わるかもしれない、というのでは安心して投資することはできませんので。
経産省の案では「10年間の保証」となっていますが、今のところ価格の決め方がよくわからないです。きちんと透明性のある価格決定プロセスを導入しないと、投資しにくくなる恐れがあります。
ドイツでは、「20年間の保証」で、毎年5%ずつ価格を低下していくことが予告されています(早くつけた方がトクというしくみにすることで、早期普及をはかっています)。いつの価格はいくらになるのか読めますから、透明性の高いプロセスで、安心して投資することができるでしょう。
環境省の案では、「15年間の保証」で、ドイツと同じように価格低下を予定しています。
(5)わかりやすさ
言うまでもなく、制度としてわかりやすいものでないと、使いにくくなりますし、多くの人の支持も得にくくなります。
そういう点で言うと、経産省の案は、補助金(国、地方自治体)やRPSでの2倍価値扱い、電力会社の余剰メニューなど複数の制度が併存していて複雑になっており、わかりにくいという声があります。
ドイツの制度は、固定価格制のみですからシンプルでわかりやすいものです。環境省案は、固定価格制とRPSとの併存となります。
現時点での情報をもとに、以上の5つのポイントでまとめてみました。
経産省案 環境省案 ドイツの制度
(1)全量か、余剰分か 余剰分 全量 全量
(2)負担額と 100円/月/世帯 260円/月/世帯 230円/月/世帯
回収期間 15年 10年 10年
(3)対象となる 太陽光のみ すべて すべて
自然エネルギー
(4)価格の確実性 10年間の保証 15年間の保証 20年間の保証
価格の決め方 不明 ドイツと同じ 毎年5%低下が
価格低下を予定 予告されている
(5)わかりやすさ × △ ○
さて、実際にどのような制度設計になるのかをしっかりウォッチし、実効性のある制度にしていくよう、声を挙げていきましょう。