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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | Ecofys(ドイツ) Dr. Niklas Höhne、Katja Eisbrenner、Markus Hagemann、Sara Moltmann |
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発行: | WWFインターナショナル、アリアンツ・グループ(日本語抄訳はWWFジャパンによる) |
発行日: | 2009年7月1日 |
ページ数: | 11ページ |
入手先: | PDFダウンロード |
- アリアンツ・グループとWWFは、3年間にわたって「G8気候変動対策スコアカード」を共同で発表してきた。気候変動スコアカードはいわばG8各国の温暖化対策を総合的に評価した「成績表」である。スコアカードは、アリアンツとWWFの合同委託を受けてEcofysが作成した。2009年版では、気候変動を食い止めるためのG8諸国の取組みが、世界を低炭素経済の軌道に乗せるほど十分なものではないことが明らかにされた。政界・経済界の指導者たちが危険な気候変動を避けるために従うべき一連の勧告と具体的な行動を示す。
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Ecofys:“A Sustainable Energy Supply for Everyone”を使命とするコンサルタント会社で、オランダに本社を置き、フランス、ドイツ、英国、スペイン、イタリア、チリ、中国など世界10カ国に19(本社含む)のオフィスを持つ。スコアカードを作成したのは、Ecofysのドイツオフィス。
http://www.ecofys.com/ - WWFインターナショナル:100カ国以上で地球環境の保全に取り組む、世界最大の民間自然保護団体(NGO)。希少な野生生物の保護から地球温暖化防止まで幅広い活動を行なっている。
http://www.panda.org/ - WWFジャパン:1971年に世界で16番目のWWFとして誕生し、30年以上にわたって国内外で自然保護活動を続けている。
http://www.wwf.or.jp/aboutwwf/ - アリアンツ・グループ:1890年に設立され、保険、銀行、不動産管理の各分野で国際的に業務を展開している。日本には、アリアンツ生命保険株式会社、アリアンツ火災海上保険株式会社がある。
概要
気候変動は人類と諸文化、生命の自然的基盤を危機にさらしている。また気候変動による影響も世界各所で表れており、最新の科学的知見では、さらに深刻な警告が発せられている。問題がいったん危険域に達すれば、どんなに資金を費やそうとも地球は救うことはできない。気候変動は緊急の課題であり、今が行動のときである。
2009年は気候変動に関して決定的に重要な年である。12月にコペンハーゲンで開催される国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)において、各国政府は、京都議定書に基づくか、それを強化する形で、世界の気候変動条約の継続に合意する必要がある。
こうしたなか、2009年7月に開催されたG8サミット及び主要国経済フォーラム(MEF)における世界の首脳会議は、コペンハーゲンでの成功に向けた土台作りを行うための重要な機会と位置づけられた。今回のスコアカードの分析では、どの評価対象国も行動を起こしているが、温暖化の深刻な影響を回避するため、地球の平均気温の上昇を産業革命以前のレベルから2℃未満に抑えるには、まだ不十分であることが示された。G8サミットには、法制度・実践面において今回の評価よりもさらに真剣、かつ早急に新たな展開が求められる。
G8サミットの各国首脳に対し、新たな展開が成功するか否かの試金石となるのは、以下の4点。
- 自国に厳しい排出量削減目標を設定し、野心をより高く持つことを約束すること。
- 気候変動の影響に最も脆弱な国々に対し、すでに不可避な影響に対応するための援助を提供する責任を認識すること。
- 大型新興国との技術面での公平で実践的な協力の必要性に合意すること。また開発途上国が低炭素な開発を達成するための十分な資金を提供すること。
さらに世界中の首脳たちは、大気中の炭素予算が限られていること、残存する予算は開発途上国に分配しなければならないことを認識することが重要だ。
気候変動の脅威に対して、各国は異なる対応を見せており、スタート地点も異なるため、「1990年以降の進展」「現状」「将来に向けての政策」は著しく異なっている。したがって、 G8諸国の総合成績はこの3つの指標群を比較することで評価されている。下記の基準を満たすと、全成績評価指標において優良と判断される。
〈 1990年以降の進展 〉
- 1990~2007年の間に、1990年の時点から2050年のマイナス95%の削減に向けて直線を描くように排出量を削減している。
- 2008~2012年に適用される京都議定書の目標値をすでに達成したか、近づいている。
- 1990年以降、再生可能エネルギーの使用量が著しく増加している。
〈 現状 〉
- 1人当たりの排出量が、2050年のマイナス95%に向けて1990年の全先進国の平均レベルから直線を描くような軌道に乗っている。
- 2050年のマイナス95%削減に向け、全先進国の平均よりもGDP当たりの排出量が減少している。
- 発電の際に原子力を使わず、天然ガスを使用するよりも平均で1kWh当たりの排出量が少ない。
- 産業において、利用可能な最良の技術を使用する場合のエネルギー消費量から単位当たり24%以内にエネルギー消費量をとどめている。
〈 将来へ向けての政策 〉
- 気候変動に関する国際交渉においてリーダーシップを発揮する。
- 電力部門を脱炭素化し、電力の需要を減らす野心的な政策を制定している。
- 産業部門から排出される全排出量を野心的な政策でカバーしている。
- 家庭/サービス部門における燃料からの直接排出量の全量を減らす野心的な政策を制定している。
- 運輸部門の改革をスタートさせる政策を制定している。
- 再生可能エネルギー使用を支援し、実効性のある対策を制定している。
以上の基準をもとに分析・評価した主な結果は、以下のとおり。
- カナダとロシアは落第
カナダの1人当たりの排出量は世界最大レベル。昨年策定された排出量削減計画も施行されていない。ロシアは1999年以降、排出量が着実に増加している。最近、高度な政府目標が設定されたがまだ実行されていない。- 米国は「将来へ向けての政策」で進展が見られる
昨年最下位であった米国は4位に躍進。オバマ新政権になり、全体的にはこの4カ月で、気候変動に関して過去30年間よりも多くのアクションが取られている。だが、依然としてG8諸国の中では最大の排出国であり、1人当たりの排出量は世界最大。さらに増えると見られている。- 日本とイタリアは、1人当たり、GDP当たり、工業生産当たりの排出量は比較的少ないが、さらに減らすための政策は不十分。
日本は高いエネルギー効果と原子力の利用により排出量は比較的低い(ただしWWFは原子力を安全性、核拡散などの理由から有効な政策手段とは認めていない)。だが排出総量は減少しておらず、拘束力のある排出量削減政策は施行されていない。イタリアの1人当たりの排出量はG8諸国の中で低いが、1990年以降、排出総量は著しく増加。全般的に政策力は弱く、戦略的アプローチに欠ける。- フランス、イギリス、ドイツはその他のG8諸国より成績が良いが、平均気温上昇を2℃未満に抑えるために十分な貢献はしていない。
フランスの排出量は低いが、その理由の一つが原子力エネルギーである。WWFは原子力を有効手段として認めていないため、それを換算して3位となった。イギリスの排出量は京都議定書の目標値を下回っている。エネルギー・運輸・家庭/サービス部門などで将来的に大規模な排出量削減が実現する可能性がある。ドイツの排出量は2000年以降、わずかに減少するのみ。2020年までに温室効果ガス排出量を40%減らすという野心的な目標を掲げているが、この目標の達成は遅れている。- G5諸国(ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカ)について
異なる国内環境と開発の度合いが理由で、G8諸国と同じ方法で評価されていないが、5カ国すべてが将来の排出量の増加を遅らせるための対策をとっている。最も詳細な計画を提示しているのは南アフリカ(2050年までに30%削減)とメキシコ(2050年までに50%の削減)。再生可能エネルギーへの支援が目立つのは、中国、南アフリカ、インド。ブラジルも長期にわたってバイオエタノールを支援している。また、インドと中国は、GDP当たりのエネルギー消費量を20%削減するという大規模な目標を掲げている。そのほか、ブラジルは森林減少を防ぐ計画も策定している。- 最近の好ましい展開
まず第一に米国のオバマ新政権の積極的な気候変動対策が挙げられる。同政権は、国際気候変動交渉に参加しており、既存の州・地域レベルでの気候変動イニシアティブと併せ、米国には真の変革が見られる。米国のこうした動きを受けて、ほかの国もさらに野心的な目標を掲げることができるようになった。また経済危機が原因で各国の野心のレベルが下がっていないことも好ましい傾向だ。入念に計画され、適切に使用される公的資金は経済開発、雇用、及び温室効果ガスの排出削減に利益をもたらし得るという一般的な認識がある。- 好ましくない展開
気候変動が問題として国際的に認識されてから20年が経過したにもかかわらず、一部の先進国の温室効果ガス排出量は依然として増加していることが第一に挙げられる。また、多くの国の経済再生策では、世界経済をグリーン化する機会が十分に活かされていないこと、クリーン開発メカニズム(CDM)の下での、開発途上国における排出量削減プロジェクトの将来に関する不確実性が増加したことが挙げられている。
日本のスコアカードは表2として掲げる。前年に引き続き、日本の気候変動政策について、「国際交渉におけるリーダーシップ」「電力/原子力」「産業」「家庭/サービス」「運輸」「再生可能エネルギー」の各項目でまとめられている。