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日刊 温暖化新聞|あの人の温暖化論考

京都議定書をより効果的にするための3つの戦略 / デニス・L・メドウズ

 温暖化に関して、まだ科学的な議論の残る部分は多いものの、次の6つの事実はすでに確立されていると理解している。

  1. 地球の気候は、私たちの地球社会が過去数世紀にわたって適応してきた、比較的私たちに適した状況から急速に逸脱しつつある。
  2. この変化の主な原因は、人間による温室効果ガスの発生である。
  3. 主に化石燃料の燃焼から発生している二酸化炭素は、私たちの技術やライフスタイルを変えることによって最もコントロールできるものである。
  4. 地球社会は、近い将来に私たちが何を行うかに関係なく、100年という単位での「急速に進行する逃げることのできない気候変動」の期間に入りつつある。
  5. その恩恵を享受するのが将来世代だけだとしても、二酸化炭素排出量の増大を止め、そして減少させていくための予防的な措置を見いだし、実施することが極めて重要である。
  6. 予防的な措置だけでは十分ではない。私たちは急いで適応策を策定し、実行しなくてはならない。

 この10年間、地球社会は、これまでのやり方で二酸化炭素排出量の増大を止めようとしてきた――排出量に上限を設ける規制、市場の取引をするための詳細、排出量を減らす技術進歩への期待などである。こうしたやり方の基盤にあるのは、「マイナーな変化を行えば、政治・経済・社会システムを不安定にすることなく、温暖化の問題を解決できる」という空想だ。残念ながら、安定した発展を維持しようとするこのアプローチはうまくいっていない。今日、二酸化炭素排出量は、大気中の温暖化ガスの濃度を一定に保つために必要なレベルの2倍にもなっている。そして、排出量は減るどころか増えているのである。

 主要な排出国のいくつかは京都議定書を批准していない。そのひとつである米国は今日、1990年に比べて二酸化炭素排出量は16%増加している。二酸化炭素排出量が増えているのが京都議定書をまだ批准していない国々だけであれば、京都メカニズムの効果を信じることができるだろう。しかし、京都議定書に批准し、二酸化炭素削減を法的にも約束した国々ですら、その約束を守ることができていないのである。

 そして、ほとんどの国では、それぞれの取り組みにさらに力を入れている。高い削減目標を設定し、これまでの政策により多くの投資をしている。しかし、そういった努力を強めても、やはりうまくいかないだろう。

 京都議定書は、いわゆる「キャップ&トレード」システムに頼る形で実施されてきた。その目標は、現在の政治・経済システムの安定性を保つことだ。残念ながら、安定性を維持しようとする努力はどのようなものであっても、不安定性をつくり出す。気候はすでに変化しつつある。地球社会の混乱を避けるために実行されている現在の政策によって、将来のずっと深刻な気候変動を避けられる可能性はまったくない――そして、地球社会に大きな不安定性をもたらすことになるだろう。

 京都議定書は役に立つものではあるが、十分ではない。京都議定書をより効果的にしたいと考えるのなら、「問題はマイナーな混乱だけで解決できる」という空想を捨てなくてはならない。根本的に異なる政策や措置を追求しなくてはならない――それが短期的には不安定性をもたらすことになったとしても。そして、これまで大事にされてきた思い込みや考え方、習慣を捨て、私たちが直面している難題の現実を認める必要がある。その目標を達成するための3つの戦略を述べよう。

 そのためにまず、私が「シンプルな問題」と呼んでいるものと、「複雑な問題」と呼んでいるものの違いについて説明をしておこう。

 この2つの問題の区別は、私たちの誰もが直面する、ありとあらゆる問題に当てはまる。

簡単な問題

 図1は、「簡単な問題」を示している。左下の点から右上の点まで変えたいとしよう。「次の評価」は、その目標を達成するための行動を評価するタイミングだ。政治家にとっては次の選挙かもしれないし、上場企業にとっては、次の財務報告書を発表する時期かもしれない。 「行動その1」はその問題を根本的に解決する行動で、「行動その2」は、状況を悪化させる行動だ。

このような「簡単な問題」は解決しやすい。なぜなら、最終的に問題を解決してくれる行動は、短期的にも(つまり次の評価のときにも)より良く見えるからだ。そして、状況を長期的に悪化させる行動は、次の評価のときにもすでに良くないことがわかる。

 政治家も企業リーダーも「簡単な問題」を好む。長期的に問題を解決する行動をとることによって、短期的にも認められるからだ。その結果、一般的には、「簡単な問題」は現在のリーダーたちが解決できる。しかし、違う種類の問題もある。私が「難しい問題」と呼んでいるものだ(図2)。

難しい問題

 「難しい問題」の場合、問題を最終的には解決する行動は、短期的には悪く見えてしまう。そして、長期的に状況を悪化させる行動は、次の評価のときには望ましく見えるのである。

 政治家も市場も、自動的にこのような「難しい問題」を解決することはしない。政治家も企業リーダーも、長期的な結果にかかわらず、短期的に効果的に見える行動を強く好むのだ。

 気候変動は「難しい問題」である。この問題に効果的に取り組むには、「難しい問題」から「簡単な問題」に変えなくてはならない。その転換には2つの変化が必要であり、それが戦略の最初の2つだ。

 戦略1は「時間軸を延ばす」ことだ。そのためには、金利を下げること、選挙と選挙の間の期間を延ばすこと、マスコミが目の前の結果ばかりにとらわれないようにするなど、社会の「短期的要因を重視しようとする圧力」を減らすことだ。また、社会のなかで「長期的な関心や懸念を取り上げる倫理的な力や道徳的な力」を強めたり、「現在の行動が遠くでどのような結果をもたらすか」を意思決定者にきちんと素早く伝える指標をつくったりすることも役立つ。

 戦略2は「システムをより良く理解する」ことである。二酸化炭素排出量はおおまかに、次のような等式にまとめることができる。

 二酸化炭素排出量=人口×一人当たりの資本×資本単位当たり必要なエネルギー×エネルギーのうちの化石燃料の割合

 ほとんどのリーダーたちは、二酸化炭素排出量の削減は重要であると合意している。しかし、二酸化炭素の削減を「社会を不安定化させない方法」でやろうとしている。従って、これまで強調されてきたのは、2つの技術的な政策のみである。1つは、建物の断熱性能を高めたり、燃費の良い車を設計したりといった「資本単位当たりに必要なエネルギー量を減らす」ことだ。2番目の方法は、風力発電や太陽熱活用などによって「化石燃料の割合を減らす」ことだ。

 エネルギー効率は改善し、再生可能エネルギーの量も増えている。しかし、二酸化炭素の排出量は増え続けている。なぜならば、人口と、一人ひとりが使う資本がそれ以上に増えているからだ。技術進歩を追求する取り組みは、社会を不安定化させることはない。しかし、二酸化炭素排出量を減らすこともないのだ。私たちはいまや、人口の増加とより高い生活水準を求める要求に対する取り組みを始めなければならない。

 気候変動は「問題」ではない。気候変動は「症状」なのだ。それは、人口の成長と物質的な生活水準の上昇を支えている圧力がその力をなくして減っていくまで、地球上で大きくなっていくストレスのひとつの例なのである。

 戦略3は「エネルギー危機を利用して変化を推進する」ことである。2~3年のうちに、地球全体での在来型石油の生産量はピークに達する。すでにピークは過ぎているかもしれない。1980年代初めから、来る年も来る年も、地球上で発見される在来型石油より、消費されている石油のほうが多いのだ。2年のうちに、国々のリーダーは、いま二酸化炭素濃度の上昇を心配しているのと同じように、エネルギーが入手しにくくなっていくことへの心配を募らせるようになるだろう。

 このエネルギー危機は温暖化問題の役に立てることができよう。有権者も消費者も、リーダーたちが気候問題を無視しても放っておくだろう。しかし、エネルギー問題を無視するのは放っておかないだろう。「何かしろ」という強烈な要求に対して、リーダーたちがとるであろう行動のいくつかは、外国の埋蔵石油を確保するために侵攻したり、火力発電所を増設するなど、気候変動をさらに悪化させるだろう。また、住宅に断熱を施す、ソーラーエネルギー源を開発するなど、気候変動の問題を軽減するものもあるだろう。私が提案する最後の戦略は、「私たちは京都議定書を採択したため、迫り来るエネルギー危機に対応する取り組みを、気候変動の問題のためにうまく活用する」ということだ。 エネルギー不足は、人口増加や生活水準に影響を与えるだろう。その影響が、二酸化炭素排出量を削減する努力にとっても役に立つものとなるよう、努力しようではないか。
私たちが進んで新しい戦略をとろうとすれば、うまくいく――そう私は信じている。

(2007年12月12日)

デニス・L・メドウズ

 

Profile

デニス・L・メドウズ氏
インタラクティブ・ラーニング研究所所長

デニス・L・メドウズ氏は、長期的な視点からものごとの全体像と根源を見るシステム思考の大家であり、人口、経済と地球環境に関するローマクラブへのレポートとしてまとめられた『成長の限界』は世界中で注目を集めた。MITで経営学博士号を取得後、MIT、ダートマス大学、ニューハンプシャー大学などで経営学、工学、社会科学などを教え、プログラムディレクター、学部長などを歴任した。システム思考、未来学、体験学習など10の著書を持つ。世界の企業のボードメンバー、政府・業界・NPOなどへのコンサルティングの実績多数。地球温暖化問題、ピークオイル問題における世界の第一人者でもある。

 
 
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