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日刊 温暖化新聞|あの人の温暖化論考
はじめに
21世紀の頭、人類は「都市に住む種」になりつつある。これは人間と自然との関係が根本的に変化したことを意味する。近代都市の特徴は、経済活動と人々の交流の集中にある。例えば最も発展している国々では、都市を基盤とした経済活動がGNPの85%を占めている。
都市化の過程は、ますます資源集約的になり、気候変動や生物多様性の損失などを世界中で後押ししている。都市は「それがもたらす影響」をほとんど気にかけずに、資源消費や廃棄物処理を行っているのだ。
また、都市は大きく豊かであるほど、都市周辺部ではなく、世界中からの自然の恵みを利用する傾向がある。都市のエコロジカル・フットプリントは、都市自身の何百倍もの大きさになりうるのだ。今、都市に求められるのは、迅速に再生可能エネルギーに切り替え、ダメージを受けた生態系を甦らせる手助けを積極的にすることだ。
つまり、今日の挑戦は、もはや持続可能であるのみならず、都市領域の外側の生態系サービスを強化する、地球の再生力をはぐくむ都市を作ることである。それは、「都市」と「資源が引き出される生態系」との結びつきを環境的な意味で強化し、甦らせるための、政治・財政・技術的な包括的戦略を始めることだ。
生態・経済システムとしての都市
都市に住む人々を支えるには、精巧な生態・経済システムが必要だ。例えば、大規模な輸送システムがない場合、人間の集落は適切な量の有機廃棄物を環境に戻すことによって、生産性と肥沃さを維持していた。こういった伝統的なシステムを「農業都市」と呼ぶことにしよう。
つい最近まで、アジアでは多くの都市が、周辺の農場を肥沃に保つために、人間や動物の排泄物を利用していた。私たちはこの先、最新の方法論や技術を利用しながら、この農業都市のシステムから学ぶことが出来るだろうか。
石油都市の台頭
産業革命は、今日まで続く爆発的な都市の成長を引き起こし、新たな輸送技術は遠隔地からの食料などの供給を容易にした。近代都市を「石油都市」と描写できるかもしれない。生産、消費、輸送という重要な機能は全て、石油など化石燃料の大量投入によって動力を得ているからだ。しかし化石燃料は有限だ。しかも都市の資源消費により、都市が依存している世界中の生態系は蝕まれている。
また「入ったものは、ほとんどが出て行く」はずだ。現在の都市システムが排出する莫大な量の廃棄物は、どこに行くのか。私たちの生活排水には何が含まれているのか。大気汚染は健康問題をもたらすが、温室効果ガス排出は、心配が人間の健康から地球の健康へと移行したことを意味している。
現在の課題は、食料価格の高騰などの問題が生じる前に、都市生活が環境にもたらす影響に立ち向かうことだ。
石油都市と地球の限界
都市は依存するシステムであり、都市が依存している外部資源はますます不安定になっていくようだという事実を、私たちは認めなければならない。
大気中の二酸化炭素の増加は、ほとんどが都市のための燃焼によるものだ。北極地域は、人類に由来する二酸化炭素排出の影響を特に受けやすいという。北極の温度上昇は、大気への温室効果ガスの放出をさらに加速する可能性がある(これは特に、溶けだした永久凍土層からのメタン放出によるものだ)。そして、この悪循環によって、地球温暖化がさらに進む可能性がある。
石油都市という考えに、根本的に立ち向かわなければならない。天然資源の埋蔵量と行動のために残された時間は着実に少なくなっているが、朗報もある。再生可能エネルギーにかかるコストもまた少なくなっているのだ。
太陽の都市を作る
単に大規模な近代都市がなくなることを望む人もいる。しかし、しばらくは都市化が世界的に続くことを考えると、化石燃料への依存を最小限にする方法を見つける必要がある。都市が再生可能エネルギーへと迅速に転換することは、重要な出発点だ。
多くの国や地域が、固定価格買い取り制度を導入しており、ドイツではこの結果、電力の18%が再生可能エネルギーによって賄われている。つまり技術と政策は密接に結びついているのだ。都市内部や都市周辺での太陽エネルギーを用いたエネルギー生産の例は多数ある。風力発電技術の躍進もまた、政策によって後押しされており、その進歩は驚異的だ。気流の動きは太陽光によるので、風力発電もまた太陽の技術といえる。
大都市では、都市内部や周辺だけではなく、遠隔地からのエネルギー供給も必要かもしれない。例えば欧州、中東、北アフリカの再生可能エネルギー資源を結びつけようとする取り組みもある。しかしこのような取り組みは全て、都市のエネルギー需要を包括的に管理するシステムを同時に導入なくしては、十分なものとはならないだろう。
また都市の密度を高めれば、輸送エネルギーの効率を上げることができる。可能な限り徒歩や自転車で出かけてもらう必要がある。また、電気自動車など、輸送の技術も変化している。
こういった全ての手段を一緒に用いれば、都市部に新たな経済分野を創出しながら、都市のエネルギー生産・消費パターンを劇的に変えることが出来る。
都市の代謝――線形から循環へ
自然の代謝は、無駄なく循環する。有機体からの全ての産出物は、環境全体を再び満たし維持する材料でもあるのだ。対照的に、多くの近代都市の代謝は線形だ。化石燃料は抽出、燃焼され、その排ガスは大気中に放出される。原料は消費材に加工され、最終的には自然が有益に再吸収できない廃棄物になる。木材や食物についても同様だ。
この線形のオープンループ手法は全く持続可能ではない。循環的なシステムを作り出す方法を自然から学ばないかぎり、都市化する世界は、世界中の環境の衰退を媒介し続けるだろう。紙やプラスチックなどのリサイクルはもっと行われる必要がある。一番重要なことは、有機廃棄物を肥料に変えて、植物栄養素と炭素を農地に返すことだ。
都市のための食料
都市への食料供給を支えているのは、多くのエネルギーを使う生産システムだ。例えば、米国の1人の農業従事者は、典型的には100人の都市生活者を養っている。しかしこの食料生産システムには、食品カロリーの10倍の化石燃料エネルギーが使われている。
もっと効率的な食料供給方法を見つける必要がある。地元での食料生産もその一つだ。キューバでは「都市内」有機農業による都市への大量の食料供給が、十分に実証されている。巨大都市でも、かなりの量の果物や野菜を、都市領域内や周辺地域から調達することができる。ただし穀物には遥かに広い土地が必要なため、ほとんどを遠くの農地からの供給に頼らざるを得ないだろう。
都市領域の外の生態系へ・・
再生可能エネルギー、都市農業などは、「地球の再生力をはぐくむ都市」構想の一部に過ぎない。何よりも、都市と都市領域の外側にある生態系との結びつきに対処する必要がある。
都市が他の広い領域に寄生していることは、エコロジカル・フットプリントを計算すれば分かる。エコロジカル・フットプリント最大の領域は、食料生産に必要な面積だ。問題は、炭素と植物栄養素が農地から取り除かれ、土地へと戻らないことだ。農地の生産性は、土壌に悪い影響をもたらす人工肥料によって保たれている。その一方で、下水の植物栄養素は二度と土地に戻ることはない。再生力をはぐくむ都市では、こうした問題の新たな解決方法を見つけなければならない。
生態系にダメージを与える都市システムを、生態系を回復させるものへと変えるためには、都市システムのデザインを根本的に考え直す必要がある。
石油都市からエコ都市へ
都市の専門家達はよく「世界の環境問題や気候問題への解決策が、もっとも簡単に実行できる場所として、都市をみるべきだ」と言う。都市では多くの人が集まって暮らしているため、資源を効率的に使用できる可能性があるからだ。また都市では、重要な決定も常に行われている。統合的で、回復力のある都市計画や管理が、経済的に新たな機会をもたらすとの認識も、高まりつつある。
都市の欲求のためにダメージを受けた森林などを甦らせるプロジェクトを始めることは、都市の政策構想の範囲を明らかに超える。適切な行動を起こすためには、都市・国家のレベルから国際レベルに及ぶ、政治的判断と経営的判断が必要だろう。
都市は資源を自然から取り出している。新たな挑戦とは、その自然システムの再生を、継続的に支援する方法を見つけることだ。
(2011年11月28日)
ハーバート・ジラルデット
ワールド・フューチャー・カウンシル共同創設者
ドイツ、ハンブルクを本拠とする、未来世代の権利を守ることをめざす非営利組織「ワールド・フューチャー・カウンシル」の共同創設者、元プログラム・ディレクター、名誉会員。英国のシューマッハー協会元会長。主に持続可能な都市開発のコンサルタントとして活動、都市エコロジストの第一人者と称される。ロンドン、ブリストル、サウスオーストラリア州都アデレードを持続可能な都市にするプロジェクトを展開。アデレードでは「Thinkers in Residence(居住する思想家)」プログラムの一人として参画。
著書・共著書12冊、テレビ・ドキュメンタリー50作品を手がける。 「国連グローバル500賞」受賞、英国王立建築家協会名誉フェロー、英国ソイル・アソシエーション(英国の有機認証機関)後援者。2004年と2008年に著書『CITIES, PEOPLE, PLANET – Urban Development and Climate Change』を、2009年に『A RENEWABLE WORLD – Energy, Ecology, Equality』を出版。