ページの先頭です。

5つのスキップメニューです。
このページの本文へ
関連ページのメニューへ
コンテンツメニューへ
インフォメーションメニューへ
日刊 温暖化新聞 ホームへ

本文の先頭です。

日刊 温暖化新聞|あの人の温暖化論考

山の頂を目指して / 藤野 純一

京都議定書締約期間(2008-2012)とポスト京都(2013年以降)の間にギャップが生じる可能性が高くなってきた。日本、米国などの先進国で気候変動法案が議会を通らない。そのような状況では、11月末からメキシコ・カンクーンで行われるCOP16(*1)で合意が得られる可能性は低い。2011年のCOP17で合意されても、2012年のうちに批准に必要な国の承認を得ることは相当難しい。

2010年10月に北京で行われた会合の合間にエネルギー専門家と話す機会があった。「中国の削減目標をどう見るか」と聞かれたので、「なりゆきシナリオに近く必ずしも野心的ではない」と答えた。すると彼は「中国は他国がどうしようと自国で削減を行うというカードを切った。米国はまだ議会を通っていない。日本も条件付きで具体的にどのような削減をするのか。次にカードを切るのはあなたたちの番だ」と言った。

2004年4月から5年間、2050年までに日本の二酸化炭素排出量を60から80%削減する低炭素社会シナリオ研究を約60名の研究者のチームで行った(*2)。2050年の社会経済像および大幅削減を実現する対策を探究した研究である。その成果は、低炭素社会の名を広め、日本の2020年温室効果ガス排出量25%削減(1990年比)、2050年80%削減につながっている。現在、中央環境審議会地球環境部会ロードマップ小委員会では、100名以上の専門家が、住宅・建築物、交通、地域開発、ものづくり、エネルギーシステムなどのセクターごとの対策とそれを実現させる政策のロードマップを開発している(*3)。

日本低炭素研究の別の展開としては、滋賀県や京都市など地域を対象にした持続可能な開発に向けたロードマップ作りがある。滋賀県は議会でロードマップ実現のための予算審議が現在行われており(*4)、京都市では2020年25%削減、2030年40%削減を明記した条例が9月終わりに通った(*5)。また、我々の研究グループAIM(アジア太平洋統合評価モデル:Asia-Pacific Integrated Model)は、アジアの持続可能な低炭素社会を実現させるため、中国、インド、タイ、韓国、インドネシア、ベトナムなどを対象としたシナリオ作りを現地の研究者とともに進めている(*6)。

2010年11月12日、筆者はクアラルンプールにいた。主にマレーシアを対象とした低炭素社会シナリオ構築と社会実装を行う研究プロジェクトがJST/JICAによる地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)として本年度採択され、ちょうどMinutes of Memorandumの調印式を終えたところである(*7)。発展著しいジョホールバールを中心とするイスカンダール・マレーシアにおいて持続可能な低炭素開発を進めるために、モデルシミュレーションで導き出される理想の姿をどうやって実現させるか、現場の行政機関と一緒に検討する。

2010年11月19日、筆者はバンコクにいた。タイの中央および地方の政策担当者、ビジネス、国際機関等を対象に低炭素社会シナリオを開発するAIMモデルを実際に操作してもらうExerciseを行うCapacity Buildingワークショップを主催した。日本以外で研究者以外の広い層を対象にシミュレーションモデルの操作を教えたのは今回が初めてだった(*8)。

温暖化交渉は、各国の利害をむき出しにして難航を極めている。そんな時こそ、本当にどのような(低炭素)社会が欲しいのか、原点をよく見直すべきだ。そこから、どうすれば実現できるのか、最先端の知恵を組み合わせて最善の解決策を導き出す。その際、各自の役割を明確にし、できるだけ多くの主体が立案過程に関わっていけるプロジェクトデザインが大切だ。中身が本物ならば、交渉の行方に関わらず、いずれその山の頂(本当に欲しい社会)に向かうことになろう。誰かのために登るのではない。自分たちの希望ある将来のために登るのだ。

(「AJISS-Commentary(世界平和研究所、日本国際問題研究所、平和安全保障研究所の三研究所で編集会議を構成)」より一部改変)
AJISS-Commentary(英語)

(*1)United Nations Framework Convention on Climate Change(英語) (*2)脱温暖化2050研究プロジェクト (*3)中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会 (*4) Shiga Sustainable development roadmap
滋賀県、持続可能な滋賀社会づくり
(*5) Kyoto GHG mitigation action ordinance
京都市地球温暖化対策条例(2010年10月14日)
(*6)低炭素社会2050研究プロジェクト 地球環境研究センターニュース Vol.21 No.7 (*7)地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS) (*8) TGO, SIIT-TU, JGSEE and NIES, "Low-Carbon Society Model Capacity Building Workshop", Nov 19 2010 in Bangkok http://2050.nies.go.jp/sympo/101119(英語)

(2010年12月24日)

藤野 純一

 

Profile

藤野 純一(ふじの じゅんいち)
国立環境研究所 地球環境研究センター 温暖化対策評価研究室 主任研究員

1972年5月東京都国立市生まれ、大阪育ち。
甲陽学院中学校・高等学校卒業。東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻(工学博士)。山地憲治・藤井康正研究室(当時)出身。2000年4月より国立環境研究所入所。アジア太平洋統合評価モデル(AIM)プロジェクトメンバー。地球環境研究総合推進費日本低炭素社会シナリオ研究(S-3)[2004年度から2008年度]、アジア低炭素社会研究(S-6)[2009年度から2013年度予定]の幹事。中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会専門委員。「環境未来都市」構想有識者検討会委員。IPCC再生可能エネルギー特別報告書主執筆者。主著書に「低炭素社会に向けた12の方策」(日刊工業新聞社)。地球環境と家庭環境の両立が永久の悩み。

 
3つの文字サイズ選択メニューです。
文字サイズ小
文字サイズ中
文字サイズ大

検索と7つのインフォメーションメニューです。

Information
お問い合わせ
このサイトについて
プライバシーポリシー
リンク・メディア掲載について
応援メッセージ
日刊 温暖化新聞 編集部
サイトマップ
 
13個のコンテンツメニューです。
ホーム
ホーム
温暖化NEWS
温暖化BASIC
温暖化REPORT
温暖化FAQ
グラフを読む
あの人の温暖化論考
伝える人になる
エダヒロはこう考える