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日刊 温暖化新聞|あの人の温暖化論考
僕と温暖化
僕は、若いころ、ロックとかそういった音楽をやってきたから、自分が「気持ちがいい」ということの、「なぜ気持ちがいいのか?」ということには、割と反応しやすい人間だと思う。音が響き合うこと、音楽、旋律、リズム全てが、いろんな自然からの模倣のように感じたり、あるいは、音楽を創ることが、自然をいかに音楽に落とし込んでいくことなのか、みたいな感覚はいつもあった。
だから、いまの社会の仕組みについては半ばあきらめながらも、どこかではすべてと「つながっている」というのが、実感としてすごくわかっていたと思う。
温暖化というのは、「いついつまでに」というように、時間軸とすごくかかわり合っていると思う。
貧困の問題にしても何にしても、いろいろなストップウォッチがあるのだろうけれど、社会の問題は、タイムリミットを待つようにみんな時間とかかわっていると思う。
そうした「かかわり」のなかで、温暖化という問題は、「これはあまり人のせいにしていられないな」と思うきっかけとなった。温暖化は、非常に壮大な形で、地球とのかかわりあい、地球の一部としてのかかわりも含めての、そういう問題だけれど、僕らが何かを変えていく、いい機会にもなり得る、と、そう思った。
温暖化がひとつのきっかけになり、僕は、自然エネルギーがもっと増えていくための活動から始めて、ミスター・チルドレンの櫻井君と坂本龍一さんと一緒に、ap bankという組織をつくった。僕や櫻井君は、地球や温暖化について学問的に理解している人たちとは、ほど遠い人間なのだけれど、ap bank は 僕らの出資金とコンサートイベントなどの収益を、自然エネルギーの普及活動をはじめとする、僕らの世界が「いい方向」に向かうための活動をしている。
お金としあわせ
僕らは、音楽をポピュラリティのある世界で、エンタテインメントとしてやってきたので、お金には随分と恵まれてきたと思う。
お金のことを、はっきり言えば、ずっと「何なんだ?」と考えていた。「お金をたくさんもらっても、僕がこのまま死んだら、このお金はどう使われるんだろう?」と思った。「子どもたちにたくさんのお金を残してもしょうがないんじゃないか?」と思った。
それなら、そのお金をもっといい方向に使ってみよう、お金は道具なのだから、その使い道に自己責任を持って、何かを始めるのがいい、そう思うようになった。
みんながお金を合理的に求めすぎているんじゃないか、と思う。それが、この100年ぐらいの間なのか、50年ぐらいの間なのかは分からないけれど、合理的に求めたお金のせいで、自然破壊も格差の問題も、いろいろな問題が起こってきているんじゃないのか。
どうも、合理的なお金が「臭いものにフタ」をしてしまった結果として、温暖化というものが進んでいる、というふうには言えないかな、と思う。
もちろん、みんなが我慢したり、今まで持っていた欲望を抑えていくことで、温暖化もずいぶんと抑えられるだろう。でも、何かを「我慢しようよ」ということではなく、本質的なことに向かえないだろうか。自分たちの生きている実感のところにもっと向かっていく、そのためにお金を使っていけば良いんじゃないか。そういうお金の使い方で何かを変えていけるんじゃないかと、思っている。
ひとりひとりが「いい方向」を実感出来る未来へ
そうして変わっていくなかで、少し行き過ぎたり、届かなかったり、という「ゆらぎ」みたいなものが、ちゃんと内包もされている世界ができたらいい。多様性のある僕らの未来は、少し残念だけれど、うまくいかないものとか、いろいろなものが含まれながら進んでいき、すべてが平均化され、均質化されていくということには、きっとならない。
競争原理もちゃんと生きているべきだと思うし、それは否定することでもない。そして、たぶんみんながラクをして生きられる世界なんて、そう簡単には出てこないと思うから、一人ひとりが、それぞれの何かを超えなくちゃいけない、頑張らなくちゃいけないということはきっと、変わらないような気がする。
だから、直感と、いろんなことを分析して先が読めるようなことがもう少しつながって、人が向かうべき「いい方向」が見えるようになり、いま、一歩一歩何かやっていくということのなかに、大変なことをたくさん超えていけるような、そういう力強さみたいなものがある世界が生まれたらいい。
そしてやっぱり、「つながっている」ということは素晴らしいことだから、そのことをちゃんと実感できる生き方ということ。宇宙のなかで、地球がこのような大きさで、こういう太陽との距離だというのも、ほんとうに奇跡だから、それに感謝して、謙虚になりたい。
人間として、本当にいい方向に向かっていくという姿勢や、気持ちのありよう、そこを共有できる社会。それは、たぶん、みんな一人ひとりが正直に生きていける、ということが認められた社会だと思う。そんな世界を作っていけたらいいと思う。
(2008年5月9日)
小林 武史(こばやし たけし)
音楽プロデューサー、キーボーディスト
Mr.Children、サザンオールスターズ、レミオロメンなど、数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手がける。映画「スワロウテイル」(1996)、「リリイ・シュシュのすべて」(2001)、「幸福な食卓」(2007)など映画音楽も多数手がける。2003年には櫻井和寿と中間法人「ap bank」を立ち上げ、環境プロジェクトに対する融資のほか、野外音楽フェス“ap bank fes”を2005年から3年続けて開催。2006年に環境と消費を考える場として“kurkku project(クルック プロジェクト)”を神宮前に立ち上げた。