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日刊 温暖化新聞|あの人の温暖化論考

安定化のためのくさび -温暖化問題は、現在ある技術を用いて50年で解決できる- / ロバート・H・ソコロー

温暖化の進行を抑えるための“技術のポートフォリオ”はすでにある

人間はすでに、今後50年間、炭素と気候変動の問題を解決するための根本的な科学的、技術的、産業的なノウハウを手にしている。今日、この先50年間の世界のエネルギー需要を満たし、産業革命前から二酸化炭素の濃度が倍増するというシナリオを避けるための「技術のポートフォリオ」はすでに存在していることを、同僚のS.パカラ教授と共に示そう。

これらの大気中の二酸化炭素濃度を抑えるための技術はどれも、実験段階や実証段階を終えている。すでに地球上のどこかで全面的な産業スケールで実用化されているものも数多い。

二酸化炭素排出量削減の目標は?

大きな損害を与えるほどの気候変動を避けようとするとき、大気中のCO2濃度の限界はどこにあるのだろうか? 「500±50ppm」または「280ppmだった産業革命前の濃度を2倍にしない範囲」という目標が議論されている。ちなみに、この論文を書いている時点での大気中濃度は約375ppmである。

ここでは、人為的な温室効果ガスの主要なものである二酸化炭素に絞って考えよう。大まかな言い方をすれば、500ppmで安定化させるためには、今後50年間、現在の年間70億トンほどのレベルに炭素排出量をとどめておく必要がある。ところが、現在のペースで排出量が増加し続ければ、50年後には排出量は現在の2倍以上になってしまう。

安定化のためのくさび

Stabilizaiton triangle

上の図の三角形は、この50年間に削減すべきCO2排出量を示したものである。年間70億トン(炭素換算)のところで真っすぐ横に延びている線が「安定化」を示し、このまま何も手を打たないと、2054年には140億トンまで真っすぐに上がっていくことになる。この2つの線の間にある「安定化させるための三角形」は、このまま何も手を打たなかった場合の排出量の3分の1に当たる。

この安定化に必要な三角形を、7つの等分の「くさび」に分けて、2054年までに大きな違いを生み出す可能性のある技術を考えていこう。くさびの1つ1つは、ゼロからスタートして50年後には年間10億トンの炭素排出量を削減する取り組みを示している。つまり、50年間の累積では、ひとつのくさびが250億トンの排出量を削減することになる。

この30年間、炭素排出量は年率1.5%で増え続けている。一次エネルギーの消費量は2%、世界総生産は3%増加している。もし今後、炭素排出量が年率2%で増大すると、7つどころか10ものくさびが必要になる。炭素排出量が年率3%で増大すると、18ものくさびが必要になることに注意してほしい。

7つのくさびは、エネルギー効率改善、電力や燃料供給の脱炭素化、森林や農地での生物学的な炭素貯留から得られる。ここでは15の方法について取り上げるが、これらはすべてすでに産業規模で行われており、さらに規模拡大することによって、少なくとも1つ分のくさびをもたらすことができる。

カテゴリー1 効率と節約

最大のくさびを実現する可能性があるのは、効率改善と量の削減だ。何百ものイノベーションを用いて、エネルギー効率を改善することができる。ここでは、2050年までに大きな可能性を見込める4つのオプションについて取り上げる。

オプション1 燃費の向上
2054年に、現在の4倍の自動車が走っているとしよう。2054年の燃費が現在の倍になれば、燃料の種類や走行距離が今のままでも、1つ分のくさびを実現できる。

オプション2 車依存の削減
2054年に、現在の4倍の自動車が現在と同じ燃費で走っていたとしても、年間走行距離が半分であれば、1つ分のくさびが実現できる。

オプション3 建物の効率化
エネルギー効率のよい冷暖房や温水、照明、冷蔵等、すでに確立されている改善を住居・商業用建物などに施すことで、1つ分のくさびを達成できる。

オプション4 発電所の効率改善
2000年時点で、石炭火力発電所は平均32%の効率で操業し、炭素排出全量の約4分の1を排出している。2054年に石炭火力発電所の効率が60%になったら、今日の倍の電力量を発電しても、1つ分のくさびを達成できる。

カテゴリー2:電力と燃料の脱炭素化

オプション5 石炭の代わりに天然ガスを利用
天然ガス火力発電所の炭素排出量は、石炭火力発電所の約半分である。天然ガス火力発電所を現在の4倍の数に増やし、その分石炭発電所を閉鎖すれば、1つ分のくさびを実現できる。

オプション6 発電所での炭素の回収・貯留
炭素回収・貯留技術(CCS)は、化石燃料由来の炭素の約90%が大気に達するのを防ぐ技術である。2054年までにベースロード800GWの石炭発電所または1,600GWの天然ガス発電所にCCSを設置することで、1つ分のくさびを達成できる。

オプション7 水素発電所での炭素の回収・貯留
2054年までに年間250MtH2発電する石炭発電所または年間500MtH2発電する天然ガス発電所にCCSを設置することで、1つ分のくさびが達成できる。

オプション8 石炭合成発電所での炭素の回収・貯留
2054年には石炭からの合成燃料が大規模に生産されている可能性がある。現在世界最大の合成燃料工場である南アフリカのサソール工場では一日に石炭から16万5,000バレルの合成燃料を生産しているが、CCS付きの同規模の設備が200あれば、くさび1つ分が達成できる。

オプション9 核分裂
2054年までに700 GWのベースロード石炭発電所の発電量を原子力発電で置き換えることにより、1つ分のくさびが達成できる。これは1975年~90年の世界の原子力発電所の建設ペースが50年間続くことに等しい。そのためには、安全性や核廃棄物に関する人々の信頼を取り戻すこと、ウラン濃縮やプルトニウムリサイクルに関する国際的な安全保障の協定や条約をつくること等が必要である。

オプション10 風力発電
風力発電設置量が現在の50倍になれば、くさび1つ分が達成できる。

オプション11 太陽光発電
現在、太陽光発電は年率30%で伸びている。現在の発電容量量の100倍が設置されれば、1つ分のくさびを実現できる。

オプション12 再生可能な水素
水を電気分解することで、炭素を排出せずに自動車用燃料の水素が作れる。

オプション13 バイオ燃料
バイオエタノールなどを今日の50倍生産できれば、1つ分のくさびを実現できる。ただし、燃料作物の栽培適地は食糧用作物の適地でもあるため、農業の生産性を損なう危険性がある。

カテゴリー3 自然の吸収源

7オプション14 森林管理
熱帯雨林の伐採を減らし、温帯・熱帯の森林管理を行うことで、少なくとも1つ分のくさびが実現できる。

オプション15 農地の管理
保全型の耕作(土を耕すことなく土中に種をまくなど)、被覆作物の利用、土壌浸食の抑制技術などによって、土壌中の炭素の放出を抑えることができる。1995年までに世界の16億ヘクタールの耕地のうち1億1,000万ヘクタールで保全型農法が採用されているが、すべての耕地で採用されれば、半分~1つ分のくさびを実現できる。

結論

温暖化の問題に直面している今日、選択肢は「行動するか、先送りするか」である。ここに述べた一連のオプションによって、今後50年間に7つの“安定化のくさび”が達成でき、温暖化問題を解決できる可能性があることから、「行動する」べき理由の一端を示せたのではないかと思う。

これらのオプションはどれも、白昼夢や実証されていないアイディアではなく、すでに産業的な規模ですでに実行されているものばかりだ。今後50年間、その規模を拡大することによって、そのそれぞれが少なくとも1つ分のくさびを達成できるのだ。

(2008年5月30日)

ロバート・H・ソコロー

 

Profile

ロバート・H・ソコロー
プリンストン大学機械・航空宇宙工学教授

1959年ハーバード大学卒業。1964年同大にて高エネルギー理論物理学の博士号(PhD)を取得。現在、プリンストン大学工学・応用科学部および公共政策大学院(ウッドロウ・ウィルソン・スクール)にて教鞭をとる。生態学者のスティーブン・パカラとともに同大学の炭素緩和計画を主導。気候の面での制約がある中での化石燃料技術および政策に焦点を当てた研究を行う。率先して、エネルギー・環境問題の分野を物理学者にとっての真の研究領域のひとつとして確立し、このような幅広い問題に最高の科学的水準で対処できることを証明したことが評価され、2003年、アメリカ物理学会のレオ・シラード賞を受賞している。

 
 
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