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日刊 温暖化新聞|あの人の温暖化論考

気候変動の解決の責任はだれにあるのか? / 高見 幸子

フランスのワインの危機

フランスのワインの生産農家、ワイン専門家、有名なコック50名が連名でニコラ・サルコジ大統領に12月の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で世界が2020年の中間目標を90年比40%削減にすることで合意するように働きかけてほしいと訴えているというニュースをテレビで見ました。気候変動の影響で、ワイン生産に必要な朝夕や季節の気温の格差がなくなりつつあり、新しいブドウの病菌が発生するなどワイン生産の将来性が危うくなってきているためだというのです。

このニュースは以下の2点で非常に興味深いと思いました。

  1. 今まで、フランスは、決して環境でリーダーシップをとる国ではありませんでした。特に、フランスの農民は保守的であると聞いていました。それが、今回、農民が、環境団体が要求するような高い温室効果ガス削減目標を要求していることです。それだけ、気候変動の経済的影響が深刻化しているということです。
  2. EUの住民は、気候変動の解決の責任が大統領、首相という国のトップレベルの政治家にあると考え、対策を要求している点です。日本では、気候変動の解決の責任は、個人にあると考えられているように感じます。国レベルの政治家に対策を要求するという話をあまり聞いたことがありません。しかし、気候変動を解決するためには、長期的な視点で、ビジョンを描き、成功した姿からバックキャスティングをして企業や自治体や個人がダイナミックに解決策を見つけていくように誘導する政策が必要です。また、社会のシステムを変革すると勝ち組と負け組ができるため民主的な意思決定をする国のトップレベルの政治的判断が必要だと考えます。

日本政府のバックキャスティングが始まった

私が一番、日本の気候変動政策において心配していたのは、国レベルの政治家がバックキャスティングをしていなかったことでした。そして、経済産業省の護送船団方式によるエネルギー政策であると批判されるような電力業界と鉄鋼業界を保護した政策が行われてきました。また、日本経団連は、企業の自主的な対策を薦めていましたが、誘導政策がないところで企業がいくら努力をしても再生可能なエネルギーへの転換は進みませんでした。どうして日本では再生可能エネルギーへの切り替えがこんなに少ないのかとよく欧米のNGOに聞かれたものです。それは、やはり誘導政策がなかったからです。いくら気候変動の対策が重要だと言っていても、安い方の対策を選んでしまうのは当然です。

もし、電力、ガス会社が化石燃料から再生可能なエネルギーに転換してくれれば、一挙に二酸化炭素の削減が実現するのです。スウェーデンでは、エネルギー会社が地域暖房の燃料を石油から木質バイオマスに切り替えました。それができたのは、木質バイオマスの方が安くてエネルギー会社が得する誘導政策の導入のおかげでした。それで、30年間で石油への依存率を80%から11%にまで削減できています。その間、個人の生活は変わっていません。スウェーデンの2006年のGDPは90年比で44%上昇し、二酸化炭素は8.7%削減しています。

今回、54年ぶりにして日本の政権交代が実現できましたが、麻生前首相が90年比で2020年に-8%という中間目標の数値を発表したとき、あまりにも目標値が低いのでスウェーデン人は驚きました。ある日刊紙は、衝撃的な低さなので、12月のCOP15での世界の合意が難しくなることを危惧していました。今回、鳩山首相が、国連で演説をし、2020年に90年比25%削減を国際公約した時は、EUの議長国の首相が、アメリカと中国が具体的な国際公約をしなかったことと比較し、鳩山首相のリーダーシップを賞賛しました。スウェーデンの日刊紙でも、日本が高く評価されていました。このように、世界の経済大国の日本がどう動くかは、国際的に大きな波紋をよぶため日本の政治家がやる気があることを国内外の人々に意思疎通をすることは極めて重要でした。それゆえに、私は、新政権がビジョンを出し、バックキャスティングをし始めたことを大変ポジティブにとらえています。

最終目標と数値目標をどう考えるか

ただ、バックキャスティングをする場合、最終目標をどう考えるかが重要です。つまり、どこからバックキャスティングをするかなのです。現在、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書が各国の判断基準になっています。しかしながら、IPCCは、気候変動が自分たちの予想以上の速さで進んでいることを指摘しています。IPCCによれば、気候変動を制御するために、気温上昇を2度以下に抑える政策を選んだ場合、先進国で2050年に80%〜95%削減という数値目標が必要になります。しかし、2度以下に抑えるために、二酸化炭素の濃度は450ppmが限界と言っていましたが、最近、350ppmと言う研究報告が出てきています。現在の濃度はもうすでに389ppmです。それゆえ、近い将来、2050年には、100%以上の削減が必要だと書き換えられるかもしれません。NASAの研究者たちは、気候変動が不可逆的な勢いをつけてしまう線を超えるまえに、なんとかできる時間はあと10年ぐらいだと考えています。

重要なことは、最終目標を、G8やCOPでの各国間の利害が入り混じった妥協の結果の数値目標にしないことです。自然の法則は、国、EU、国連の法律や国際協定より上にあり、自然の法則に従わないと経済発展どころか、人類の生存すら危うくなります。それゆえ、ナチュラル・ステップは、成功した姿、つまり、持続可能な社会を自然の法則を基盤に定義し、その原則からバックキャスティングをすることを提唱しているのです。その持続可能性の4つの原則の一つが、「自然の中で地殻から堀り出した物質の濃度が増え続けることに加担しない」です。確実に気候変動の制御ができるためには、化石燃料を使わないことを目標にする必要があります。その目標からバックキャスティングをして2050年、2020年の数値を出し、それらにつながる短期目標を立てて実践していくことが必要です。

そうすると、フランスのワイン生産農家が要求しているように日本も2020年に40%削減にすることが必要になるかもしれません。ちなみにスウェーデンは、クリーン開発メカニズム(CDM)を含みますが、40%削減を中間目標にしています。目標が高ければ、今までの延長線にない斬新な解決策が次々に生まれてくると思います。

チャンスの到来

日本の脱化石燃料社会への変革に必要な対策として考えられるものに、炭素税、エネルギー税の導入、発電を自由化して企業や国民が再生可能なエネルギー源を選べるようにする政策、企業や個人が二酸化炭素を減らす対策をすると利益になる誘導政策があると思います。また、3年でローテーションするという省庁や地方行政の人事システムでは専門職を育てることができないため再考が必要だと思います。そして、個人のレベルでは、できる限りの対策をした上で、政治家に賢明な対策を要求し、また、勇気のある政治的リーダーシップを支援することです。国民の支持がなければ、どのような立派な政策も実現できないからです。

スウェーデンのある学者が「西洋は、1700年代の奴隷制度をやめることができたのだから、今回の化石燃料依存から脱却することもできる。」と言っていました。日本も、明治維新や戦後に大きな社会変革をしました。特に、日本の戦後の経済成長と民主化、社会福祉の発展の速さに、世界は驚いたのです。それゆえ、日本も、化石燃料の依存から脱却した持続可能な社会を築くことは必ずできるはずなのです。私は、今、そのチャンスがきたと思います。

 

(2009年10月7日)

 

Profile

高見 幸子(たかみ・さちこ)
国際NGOナチュラル・ステップ・ジャパン代表

1974年よりスウェーデン在住。15年間、ストックホルムの基礎学校と高校で日本語教師を務める。1984年より野外生活推進協会の活動である「森のムッレ教室」5〜6才児対象の自然教育リーダーとして活動。現在、スウェーデン野外生活推進協会の理事、幼児の環境教育を推進する森のムッレ財団の理事に就任。1995年から、スウェーデンへの環境視察のコーデイネートや執筆活動等を通じてスウェーデンの環境保護などを日本に紹介している。1999年から、企業、行政向けの環境教育を実施するスウェーデン発の環境保護団体ナチュラル・ステップの日本事務所の設立に関わり、2000年より、国際NGOナチュラル・ステップ・ジャパンの代表。企業・自治体の環境教育のファシリテーターとして活動中。

 
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