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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | Jan Burck, Christoph Bals, Marisa Beck, Elisabeth Ruthlein |
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発行: | 欧州委員会(European Commission) http://ec.europa.eu/index_en.htm |
発行日: | 2008年1月23日 |
ページ数: | 12ページ |
入手先: | http://ec.europa.eu/environment/climat/climate_action.htm |
- 欧州理事会は2007年3月、2020年までに温室効果ガスを20%削減し、再生可能エネルギーを20%に増加するという目標を設定した。本レポートは、EU(欧州連合)の行政執行機関である欧州委員会が、この目標と目標達成のための手段を具体的に記述したものである。
- 欧州委員会(European Commission):正式名称は、「欧州共同体委員会:Commission of the European Communities」。欧州連合(EU)の行政執行機関で、法令案の提案・提出、法令の適用を監督、理事会決定事項の執行などを行う。
概要
2007年3月、欧州理事会は大きな目標を掲げた。2020年までに温室効果ガスを少なくとも20%削減することと、同じく2020年までにEU諸国の再生可能エネルギー率を20%にする、というもので、副題につけられた「2020年までに20%」はここからきている。本レポートでは、この2つの大きな目標を、経済成長を維持しながら達成するための必要性や主要原則、排出権取引制度の改正など、目標を実現するために欠かせないツールを、EUのあるべき姿勢を交えながら詳しく説いていく。
レポート前半では、スターンレビューや石油やガスなどの価格高騰など、この目標を設定するに至った背景を踏まえ、「目標達成は変化であり、それがヨーロッパ諸国の経済的な繁栄につながる」という考えのもとで、変化によってもたらされるメリットと目標の土台となる主要原則を掲げる。
変化(目標達成)によって見込まれることは次の3つ。
- 石油とガスの輸入量が2020年には50兆ユーロ減少することで、エネルギー安全保障が向上し、EU域内の人々と企業に利益がもたらされる。
- 再生可能エネルギー技術は既に20兆ユーロの売上げと30万人の雇用を創出している。再生可能エネルギーの割合を20%にすれば、2020年までにはこの業界で100万人の雇用が生まれる。
- 全企業に低炭素技術を利用するよう勧めることで、気候変動問題がヨーロッパの産業にとってチャンスに変わる。環境技術は成長産業であり、ヨーロッパでは現在、年間売上が2,270億ユーロを超えている。
目標は、最も費用効率の良い方法で達成されるような計画で、かつ、あらゆる加盟国と産業に求められる努力がバランスを保ち続け、それぞれの環境を考慮に入れて設定された。欧州委員会は目標を達成するに当たっては、「公平」と「結束」が重要であると考えている。
主要原則として挙げられているのは次の5つ。
- 変化の現実をヨーロッパの人々に確信させるため、投資家に投資させるように納得させるため、EUの意思が真剣なものであることを世界各国に示すために、2つの目標を達成しなければならない。ゆえに提案された目標は効果的で強固なものでなければならない。
- さまざまな加盟国は公平でなければならない。目標は、異なるスタート地点と異なる環境を十分に考慮し、柔軟性を備えていなければならない。
- コストは最小限に抑えなければならない。正しいコスト構造を計画する際には、「変化にかかるコスト」と、「国際競争、雇用、社会的結合に及ぼされる影響」を中心に考えなければならない。
- EUは、2050年までに温室効果ガスを半減させる目標を満たすために、2020年以降もより大幅な温室効果ガス削減を続けなければならない。
- EUは、温室効果ガスを削減するための包括的な国際協定に向けて可能なことはすべてしなければならない。目標の提案はEUが国際協定の一環として、さらなる行動を起こす準備ができていることを示すために考案されたもの。温室効果ガス削減率を20%から、さらに30%にするためのステップでもある。
後半では、目標を実現するためのツールとして次の8つを挙げ、それぞれについて詳しい説明を展開する。
- 排出権取引制度(Emissions Trading System:ETS)の改正
- ETS以外の温室効果ガス削減
- 再生可能エネルギーの開拓
- エネルギー効率向上の役割
- 2020年以降の炭素排出量削減の可能性
- 引き起こされる変化
- エネルギー集約型産業の必要性
- 投資能力
これら8つのツールの中で、特に強調されているのはETSについてである。(1)では、これまでの経験に基づいて「気候にやさしい」経済に向かうために改正されること、改正ETSではCO2以外の温室効果ガスも含めるほか、管理負担を減らすために10,000トン以下のCO2を排出している工場はETSからはずすことなどを明記。また、EU域内市場にとって最適の制度にすることをめざし、国内割当の配分におけるオークション方式の採用を考えているという。ほかに(6)では、企業がETSの排出枠にかかる費用を削減しようとするだろうなど、改正ETSがよい変化をもたらすことを主張している。
クリーン開発メカニズム(CDM)についても言及している(2)。排出量削減に効果的であるとしながらも、「排出権供給の増加と排出枠需要の減少でETSの効果が弱まり、政府や企業のやる気がそがれる」と、そのリスクを指摘する。改正ETSでは、企業のCDM利用はできるが、それによって生じた排出枠はETSの現在の期間(2008~2012年までの第二期間)のレベルに制限するという。
さらに、欧州委員会は、温室効果ガス排出量のさらなる削減の可能性を伸ばすために、炭素地中隔離技術(carbon capture and storage:CCS)の重要性にも触れている。2015年までに12の実証プラントを建設することやETSの対象とみなすことも盛り込み、EU域内におけるCCS技術の発展を目指すことを明言している。
レポートの最後に「2つの目標は、21世紀が抱える問題に対し、ヨーロッパがその経済を改革するための取り組みにおける中心的施策である」と締めくくっているように、本レポートには、具体的なビジョンを踏まえたうえで、EUが国際的リーダーシップをとるというメッセージが全般にわたって織り込まれており、「20%」というキーワードに毅然と立ち向かうEUの姿を鮮明に浮かびあがらせている。