本文の先頭です。
日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | Prof. Arthouros Zervos, Christine Lins, Josche Muth |
---|---|
発行: | 欧州再生可能エネルギー評議会(European Renewable Energy Council)http://www.erec.org/ |
発行日: | 2010年4月20日 |
ページ数: | 76ページ |
入手先: | PDFダウンロード |
- 『RE-thinking2050(2050年再考)』は、2050年までに欧州の全エネルギーを再生可能エネルギーで賄うという長期的なビジョンをまとめたもの。2020年、2030年、2050年と段階的に拡大する再生可能エネルギーのシナリオを描くほか、社会が移行していく過程での経済、環境、社会的な利益を分析し、目標実現に必要な条件を指摘。実現可能な政策提言も幅広く記述している。
- 欧州再生可能エネルギー評議会(EREC):再生可能エネルギー(太陽光発電、小規模水力、太陽熱、バイオエネルギー、海洋エネルギー、地熱、風力エネルギー、集光型太陽熱発電)の部門で活動している、欧州の企業や輸出入業者、研究所の組合組織を統括する団体。
概要
エネルギー価格が不安定な状況下で、欧州でもエネルギー需要が高まっている。そうした中、「再生可能エネルギーが最終エネルギー消費に占める割合を、2020年までに少なくとも20%にする」との目標を掲げている欧州連合(EU)は、「2050年までに(EU域内の)エネルギー消費を100%再生可能エネルギーにする」という、強固で野心的な約束を打ち出した。
EU市場における再生可能エネルギー分野は、ここ近年で目覚しい発展を遂げており、2009年末には、同部門が欧州の最終エネルギー消費量の10%以上に達し、55万以上の雇用を創出、年間売上高は700億ユーロを上回った。ERECは、「2020年までには200万人以上の市民に雇用がもたらされ、年間売上高も数千億ユーロに達する」と見込んでいる。
欧州では、再生可能エネルギーの成長に伴い、二酸化炭素の排出量も減少。2009年だけで約3億4,000万トンを削減した(1990年比で7%減)。2009年の炭素価格(約15ユーロ)で計算すると、経済的には510億ユーロの利益を上げたに等しい。
本レポートは、EUの「2050年までに再生可能エネルギーを100%に」という約束を実現するための道のりを提示し、欧州のエネルギー供給システムと二酸化炭素排出量に及ぶ影響を検証するほか、EUが秘める再生可能エネルギーの大きな可能性を十分に引き出すための政策提言をまとめる。
ここで取り上げるのは、バイオエネルギー、風力、水力、太陽光、太陽熱、地熱、海洋エネルギーの各技術である。
まず、複数のシナリオに基づき、2050年までのエネルギーの需要量と供給量を分析した上で、「2050年までに再生可能エネルギーによる100%電力供給」という目標をどのように実現していくかを、「電力」「冷暖房」「運輸」の部門ごとに予測していく。
- 電力
再生可能エネルギー電力(RES-E)には主に風力、水力、太陽光、バイオマス、地熱、集光型太陽熱(CSP)、海洋エネルギーなどが利用されている。RES-Eの設置容量は2050年までに約20億kWに達する見込みで、RES-Eが総電力消費に占める割合は2020年には約39%、2030年には65~67%まで増加し、2050年には100%に達すると予測している。特に、2030年から2050年にかけては、ヒートポンプの利用増加や低エネルギー型の公共交通機関へのモーダルシフト、道路運輸の電化により、再生可能エネルギー電力の使用量が大幅に増加することが予想されるという。(図1)- 冷暖房
冷暖房部門の需要は、EUの最終エネルギー総需要量の49%を占めており、今後も成長が期待される。「2020年までに最低20%」の目標を達成すれば、再生可能エネルギー冷暖房(RES-H&C)の利用率は、熱の総消費量の30%となり(現在の3倍)、2030年には50%以上に、2050年には100%に達すると予測する。再生可能エネルギーの主要熱源は今のところバイオマスであるが、今後は太陽熱と地熱が大きく成長すると見られる。(図2)- 運輸
EUの運輸部門は現在、燃料の98%を石油に依存しており、その大部分を輸入しているが、こうしたやり方はもはや持続可能ではない。石油依存からの脱却を進めるには、燃費効率向上、バイオ燃料やバイオメタンの利用拡大、電気自動車やハイブリッド車などの利用促進が必要である。運輸部門を持続可能なものにする上で大きな役割を果たすのはバイオ燃料であり、その生産量は、2020年には3,400万石油換算トン、2050年には1億200万石油換算トンに増加すると予測。2050年にはバイオ燃料と再生可能エネルギー電力は運輸燃料の需要の大部分を満たすことができ、燃費向上と省エネ策を加えることで、EUの運輸燃料需要の100%を賄えるとみられている。
このように、電力、冷暖房、運輸の各分野において再生可能エネルギーの成長が見込まれ、2050年までにEU全体で再生可能エネルギーは約10億石油換算トン増加するとの分析がなされている。なお、2050年までの各再生可能エネルギーの成長を数字で示したものが表1である。
次に本レポートは、再生可能エネルギーの成長がもたらす経済、環境、社会的な利益を詳しく分析する。
経済的利益は大きく分けて二つある。一つは、「エネルギー供給の安全保障が高まり、それに関連して化石燃料にかかるコストが減る」ことである。欧州委員会によると、EUの現在のエネルギー輸入額は推定3,500億ユーロ。EUの市民一人当たりでは年間700ユーロに相当しているが、再生可能エネルギーの利用率が100%になれば、2050年には1兆900億ユーロの化石燃料コストが節約できると予測する。二つめは、「資本投資の増加」である。再生可能エネルギーの分野では、電力や燃料コストが今後20年で減少していくと予測しながらも、累積投資額は、2020年までに9,630億ユーロ、2050年には2兆8,000億ユーロ以上にまで増加すると予測している。
環境的利益は、気候変動の緩和と温室効果ガス排出量の大幅な削減である。再生可能エネルギーの展開により、2050年までにはエネルギー関連の二酸化炭素(CO2)排出量が年間約38億トン(1990年比/同年排出量の9割以上)削減できるという。2050年のCO2価格を1トン当たり100ユーロとすると、2050年には3兆8,000億ユーロが節約でき、同年の予測累積投資額との差額分である1兆ユーロが利益として生じることになる。化石燃料コストの削減も考慮すれば、利益は2兆900億ユーロに上ると考えられる。
社会的利益の大きなものは、雇用効果である。再生可能エネルギー部門の雇用者数は、EU全体で2020年に270万人以上、2030年に約440万人、2050年には610万人に達する見込みである。さらに沿岸や農村地域には、再生可能エネルギー技術の活用や関連施設の建設による利益が生じるなど、再生可能エネルギーの発展は構造政策にも効果をもたらす。
最後に本レポートは、「政治が変わらなければ、逼迫する気候変動の問題解決が進まないだけではなく、化石燃料への依存度も高まるばかりだ」とし、「政策手段」「インフラ整備」「賢いエネルギー消費」の面から政治的な提言をまとめている。この3つの観点におけるさまざまな手段はどれも「実現可能」だとし、それらを同時に進めることで、「将来の欧州に、真に持続可能なエネルギー社会がもたらされる」と述べている。
「政策手段」に挙げられているのは、エネルギーや気候、国際協力などEUの全政策分野における「再生可能エネルギー100%」への転換を促進する指針の策定や、化石燃料や原子力への助成の段階的撤廃、炭素税の導入など。
「インフラ整備」では、EU域内の二国間で再生可能エネルギーによる送電網をつなぐスーパーグリッド(英国の風力発電とドイツの太陽光パネル、スペインのCSPとスカンジナビアの水力発電をつなぐなど)とスマートグリッドを統合した「スーパースマートグリッド」への転換などを提案する。
「賢いエネルギー消費」の手段としては、各都市のエネルギー構造の持続的な向上を図るための「スマートエネルギー都市2050」(Smart-Energy Cities in 2050)や、建物内のエネルギー消費量を実質ゼロにするための「スマートエネルギー建築物2050」(Smart-Energy Buildings 2050)の策定案を述べている。
さらに付録として、ERECの加盟団体が、それぞれの取り扱う再生可能エネルギー技術について、現状、2050年に向けたビジョン、提言をまとめている。
- <図1>
- <図2>
- <表1>