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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | アカウンタビリティ(AccountAbility)http://www.accountability.org 国連環境計画(UNEP)http://www.unep.org |
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発行: | アカウンタビリティ(AccountAbility) |
発行日: | 2010年4月 |
ページ数: | 16ページ |
入手先: | PDFダウンロード |
- 低炭素経済は今後、競争が激しくなると予想され、低炭素経済で国家が繁栄していくためには、気候競争力を持っているかどうかが鍵となる。気候競争力とは、低炭素技術や製品、サービスなどを通じて、永続する経済価値を作り出す能力のことである。「気候競争力指数2010」は、世界的な経済活動の97%及び、世界の炭素排出量の96%を占める95カ国を対象に、各国の低炭素経済に向けた実績や説明責任を調査したものである。
※CCI2010では、スコアは提示せず、各地域・国の取り組み状況の分析や優れた取り組み事例の紹介が主となっている。 - アカウンタビリティ(AccountAbility):1995年に設立された国際NPO。企業責任と持続可能な発展における最重要課題に対し、革新的な解決法を提供する。北京、ロンドン、ニューヨーク、サンパウロ、ワシントンDCに事務所を置く。将来の世界市場について、革新的な解決策の立案や実践に取り組んでいる主要企業や公共機関、民間団体の世界的なネットワークの構築を推進する。
- 国連環境計画(UNEP):1972年に創設。国連組織内で、環境のための国際的な活動を行っている。環境保護において、指導力を提供し、国際間の協力関係を強化する。
概要
気候競争力指数(CCI:Climate Competitiveness Index)は、低炭素型の技術や製品、サービスを通して永続的な経済価値を生み出す能力を測るものである。測定基準となるのは、「気候の説明責任(Climate Accountability)」と、「気候の実績(Climate Performance)」。本レポートでは、2010年第一四半期における各国の顕著な低炭素経済への取組みを紹介、どの国(地域)が最も低炭素経済に近づいているかを示す。
気候競争力を確立するには、主要国が「気候の説明責任」と「気候の実績」を効果的に結び付けることが必要となる。
- 「気候の説明責任」とは、政府、企業、市民社会がいかに気候戦略を打ち出せるか、ということである。ここでいう気候戦略とは、すべての重要な機会や課題を網羅しており、解決策の提示にすべてのステークホルダー(利害関係者)が関わる戦略である。また、明確に表現、伝達され、必要に応じて調整されなければならない。
- 「気候の実績」とは、低炭素型の製品やサービスを拡大する一方で、奨励策の設定や高効率のシステムの構築、炭素強度(GDPあたりの二酸化炭素排出量)の削減において、政府や企業、市民社会が実証した取組みの実績や能力のことである。
気候競争力の高め方は、国や地域などによって大きく異なる。経済がうまくいっている国や地域では、「気候の説明責任」と「気候の実績」とがお互いに向上し合っていることが統計的に証明されているが、気候競争力を高める道のりは一つと限らない。CCI2010では、国や地域がそれぞれの優先順位や能力に基づいて独自の気候戦略を追求していることが明らかになった。
CCIは、「気候の説明責任」と「気候の実績」という2つの指標で評価される。どちらの指標も4つの分野に分けられ、全部で13の測定基準が設けられている。(図1)
CCI2010の主な分析結果は、以下の10点である。
- 気候の実績がしっかりしている国は概して気候の説明責任のレベルも高い。実績が弱い国は、説明責任のレベルも低い傾向がある。これには例外もあり、今のところ、実績と説明責任との因果関係については事例証拠しかないが、今後の気候戦略としては、この2つの要因をいずれも強化することが賢明だろう。
- 2009年12月のコペンハーゲン会議(国連気候変動枠組条約締約国会議)以降、対象国のほぼ半数(46%)で大なり小なり説明責任が向上し、気候競争力も32カ国で高まり、コペンハーゲン合意がよい影響をもたらしたことが示唆された。特にルワンダ、ケニア、ガーナ、韓国、アイルランドが大きく前進した。こうした前進は、戦略を展開していく上で議論と市民活動の重要性を実証するものとなった。
- 多くの国で共有されるべき優れた取り組み事例が見られた。しかし、ほとんどの国ではまだ改善の余地がある。具体的に、企業の行動を促進するために大きな役割を果たせるのは、企業組合、競争相手や投資機関、株式取引、消費者団体などである。
- 各国ともに独自の競争力戦略を持つことになるだろうが、異なる地域や経済グループで大まかなパターンが認められる。例えば、ボリビア、ガーナ、ベトナム、バングラデシュでは、企業の取組みが不十分である一方、市民の関心が強い。また、ブラジル、フィリピンなどの新興経済国では政府の指導力が強く、スカンディナビアやシンガポールなどでは経済界の指導力が強い。とはいえ、気候の指導力を高めるには、今後ますます、ほぼすべての利害関係者の参加が必要になるだろう。
- 気候の説明責任は政府や国会議員にとって、票稼ぎになりつつある。市民は、国のリーダーに、首尾一貫した明確な指導力を求めている。例えば、ブラジル、日本、英国では、気候の説明責任が選挙での大きな差別化要因となりつつあり、韓国では、大統領が多くの利害関係者と関わって低炭素型の成長戦略を策定している。
- 多くの北欧諸国では気候の実績がしっかりしているが、気候競争力は所得レベルに左右されるものではない。フィリピンの説明責任は高く、グリーン雇用の創出が国政の最優先課題とされている。ガイアナ、中国、チリ、モーリシャス及び南アフリカは低炭素型経済での競争力向上に向けて、独自の戦略を立てている。資源賦存量で国の実績が決まるという証拠もない。
- 気候競争力の鍵となるのは一貫性である。ドイツ、フランス、英国及び北欧諸国の実績は、8つの分野においても、説明責任と実績との関係においても、最も一貫している。北米とオーストラリアでは、市民の関心と価格シグナルが一致しておらず、経済界でも政界でも見解が食い違っている。BASIC(ブラジル、南アジア、インド、中国)の説明責任は、ほかの主要20カ国を凌ぐ高さで、中南米諸国では、説明責任よりも実績のほうが高い。アジア、中近東、アフリカ、及びEU27カ国の実績、説明責任は、いずれも国ごとに大きく異なる。
- 民間部門における気候の取組みは、気候競争力に不可欠である。日本、韓国、ドイツ、スカンディナビア、米国の高い実績は、大企業による排出量削減や低炭素型の製品・サービスの提供など積極的な取組みを見れば明らかである。各国に本社を置く大企業トップ5のカーボン・ディスクロージャーや炭素管理の実績は、国内でより幅広いビジネスを展開する上で、確実な予測の判断材料となる。一方で、経済界はおろか、国内一の大企業でも取組みが不十分な国もある。
- 企業や国が新しい市場のシェア獲得に向けて先を争っている。2020年には2,000億米ドルに達する見込みのクリーンエネルギー分野では、2009年の経済不況で若干の後退があるものの、ここ近年急速に投資が進んでいる。厳しい競争の一例は低炭素型の街灯である。香港、ニューヨーク、天津、トロントではLED技術の試験的採用が成功しており、2010年のうちに10億米ドル市場に成長する見込み。トルコ、イタリア、米国、中国などの国々では、クリーンエネルギーへの投資を増やしており、この5年間で2倍以上になった。気候の説明責任のレベルが中程度の国の中に、多額の投資をしている国があるのが懸念される。
- 気候変動の影響を最も受けやすい国々には、いまだ、説明責任も、適応や繁栄に必要となる能力もない。バングラデシュ、カンボジア、モルディブなどでは、前向きな適応策が展開されつつあるが、多くの国にとって、気候変動に強い成長戦略を立てるには国際支援が必要だ。
次に本レポートでは、世界地図をベースに、各国の優れた取り組み事例を紹介している。以下に例を挙げる。
- 英国:国内住宅からの二酸化炭素排出量を2020年までに29%減らすため、「グリーンホーム戦略(Green Home Strategy)」を導入。それにより、環境配慮型の建築部門で最大65,000の雇用創出が見込まれる。
- 中国:企業でも市レベルでも進歩している。北京近郊の保定市は、重工業から低炭素部門の都市へと移行しつつある。同市は産業の省エネ政策と、地元企業に対する規制を導入、ソーラーパネルや風力タービンの製造も支援、現在2万人がクリーンエネルギー産業に従事している。
- 米国:複数の市民団体が戦略的な協力関係を築き、政府に対し、より強力な気候変動対策の法律制定を求めて働きかけている。2006年にシエラクラブと全米鉄鋼労働組合によって結成された「青と緑の同盟(Blue Green Alliance)」は、労働組合と環境保護団体を一つにし、850万人以上の市民をまとめて、グリーン経済下での雇用を追求している。
- 日本:トップランナー方式によって、冷蔵庫や電子レンジといった一般的な商品や、自動車のエネルギー効率向上を促進している。トップランナー方式は世界で最も厳しいエネルギー効率の基準を追求しており、これを4年から8年の内に日本の産業水準とすることを目標としている。
最後に本レポートは、次へのステップは「気候競争力を確立すること」とまとめ、CCIがやがて、国家や地域、部門、組織などの戦略を発展させていく上で、信頼性が高く、活動の励みとなるようなデータ集・優れた取り組み事例集となるだろうとの期待を述べている。
- <図1>