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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | Douglas G. Cogan |
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発行: | セリーズ(CERES)http://www.ceres.org/ リスクメトリックス・グループ(RiskMetrics Group Inc.)http://www.riskmetrics.com/ |
発行日: | 2008年12月 |
ページ数: | 58ページ |
入手先: | PDFダウンロード |
- 米国のセリーズ(CERES)が、アパレル、飲料、大規模小売、食品・生活用品小売、個人・家庭用品、製薬、不動産、外食、半導体、技術、観光・レジャーという、11の業界における世界のトップ企業63社を対象に、各社の気候変動に関するガバナンス状況を調査・分析した報告書。
- セリーズ(CERES):米国の投資家、環境団体、その他公益団体の連合。企業と地球温暖化など持続可能性問題に取り組む。
- リスクメトリックス・グループ(RiskMetrics Group Inc.):米国のリスクマネジメント、コーポレート・ガバナンス、金融に関するリサーチ・分析専門会社。
概要
激しく変動するエネルギー価格、環境問題への関心の高まりを背景に、気候変動問題は、あらゆる産業分野において、最重要課題の一つとなっている。さらに、予測不可能な商品市場、目下の金融危機、クリーン・エネルギーの導入と温室効果ガスの排出抑制を急ピッチで進めようとしている次期米国大統領の登場なども影響し、気候変動に関連する経営戦略は確実に支持を広げつつある。
この報告書では、アパレル、飲料、大規模小売、食品・生活用品小売、個人・家庭用品、製薬、不動産、外食、半導体、技術、観光・レジャーという、11の業界から世界のトップ企業63社を抽出し、各社における気候変動に関するコーポレート・ガバナンスと戦略的アプローチを検証した。この63社はすべて、生産工程、製品、サプライチェーンを通じて、気候変動とエネルギーに関する課題に取り組んでいる企業である。
調査結果
- 技術、製薬、半導体業界は、気候変動に関するガバナンスの平均点が最も高い(100点満点中、各59点、57点、56点)。技術、半導体メーカーは、製品とサービスの開発面で、高得点を獲得しているのに対し、製薬メーカーは、強力なガバナンス体制が高得点につながっている。
- 飲料、個人・家庭用品業界は、比較的得点が高い(平均点は、各43点、40点)。個人・家庭用品業界では、環境に配慮した製品の開発が積極的に進められている。飲料業界では、水や農業資源に対する気候変動リスクが明るみになるにつれ、生産工程の見直しが行われている。
- アパレル、食品・生活用品小売、大規模小売業界は、不動産におけるカーボン・フットプリントが大きく、平均点が低い(各35点、35点、33点)。これらの業界では、生産工程におけるエネルギー効率の最大化や気候に優しい製品の販売、サプライヤーに対する新たな気候変動基準の導入、といった取り組みが十分に行われていない。
- 観光・レジャー、不動産、外食業界は、今回調査した業界の中で最も平均点が低い(各27点、27点、17点)。ホテル、船旅会社、レストラン、資産管理会社は、エネルギー効率化の有効な手段となりうる、幅広い不動産を保有しているにもかかわらず、十分な取り組みが行われていない。グリーン・ビルディングを実施している企業もあるが、特定の建物に限られている。また、これらの企業では、気候変動に関するガバナンス、経営者の指導力、情報公開が全体的に不十分である。
「気候変動に関するガバナンス」
- 取締役会レベルの環境監視委員会を設置している企業は、63社中15社のみ。取締役会が気候変動に特化した最新情報を入手している、と明記しているのは、11社のみ。
- 最高経営責任者(CEO)が、環境・気候変動のイニシアティブをとっている企業は、63社中7社のみ。
- 気候変動イニシアティブの進展とCレベルの役員報酬を直接結びつけている企業はない。
- 調査した企業の3分の2が、株主への年次報告書のなかで、気候変動問題について言及。16社は、最新の有価証券報告書に気候変動に関する情報を記載。
- 調査した企業の6割以上が、温室効果ガスインベントリを作成。
上位8社:
コカ・コーラ、デル、エコラボ、IBM、インテル、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ナイキ、テスコ
「生産工程」
- 3社以外は、建築設計や装置、工程エネルギーの効率化、機材のアップグレード、施設管理、従業員へのインセンティブなど、何らかの方法によって、エネルギー消費量の削減を実施。
- 専用基金を設立する、投資収益の追求を緩和する、一定予算額以上のプロジェクトに対するエネルギー効率性評価を実施する、などエネルギー効率化プロジェクトに対する資本配分を優先させている企業は、6社のみ。
上位8社:
コカ・コーラ、デル、IBM、ジョンソン・エンド・ジョンソン、マリオット・インターナショナル、サンマイクロシステムズ、テスコ、ウォルマート
「製品とサービス」
- 技術、半導体メーカーは、エネルギー効率の高い製品設計の分野で最も先進的。大規模小売、食品小売業界は、エネルギー効率がよく、気候に優しい製品の販売に積極的。
- 製薬業界の2社は、自社製品における二酸化炭素以外の温室効果ガス排出量を削減するなど、独自の対策を実施。半導体、飲料メーカーは、ハイドロフルオロカーボン、クロロフルオロカーボン等、二酸化炭素よりも強力な温室効果ガスの削減策を実施。
上位5社:
アプライド・マテリアルズ、IBM、インテル、テスコ、ウォルマート
「サプライチェーン」
- 資源採取、製品化、輸送、保管、梱包の過程で発生する温室効果ガスを、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量として、温室効果ガスインベントリに計上している企業は、3社のみ。
- 多くの企業が、サプライチェーンにおける排出量を最小化するための対策を実施。およそ3分の1が、キーサプライヤーとの連携強化、物流の改善、他の輸送手段への転換を図っている。
上位9社:
カルフール、デル、ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)、ヒューレット・パッカード、IBM、モルソン・クアーズ、ナイキ、テスコ、ウォルマート
企業の選択について
今回の調査では、比較的多くのエネルギーと電力を消費するが、温室効果ガスの排出について、直接規制を受けることはないと考えられる業界を対象とした。株式時価総額(2008年5月現在)と年間収益を基に、各業界につき5、6社を選択。分析の際は、有価証券報告書、企業報告書、企業のウェブサイト、報道記事、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクトなど第三者が行ったアンケート調査から情報を収集し、検討した。
企業の評価について
企業の評価にあたっては、2008年1月に発行した『コーポレート・ガバナンスと気候変動:金融業界』で使用した、「気候変動ガバナンス・チェックリスト」を使用。「取締役会の監督体制」「経営執行体制」「情報公開体制」「温室効果ガス排出会計」「戦略計画体制」の5つのガバナンス分野に分け、合計15項目について評価した。(表1)
今回調査を実施した11業界は、気候変動リスクに対応する際の課題がそれぞれ異なるため、「戦略計画体制」のセクションで、産業分野ごとに配点を調整。特に、「エネルギー効率」「製品とサービス」「サプライチェーンマネジメント」の項目では、配点に差をつけている。たとえば、技術、半導体、不動産業界は、製品の最終消費段階における影響が非常に大きいため、「製品とサービス」を重視。大規模小売、食品・日用品小売業界は、「サプライチェーンマネジメント」を特に重視。不動産におけるカーボン・フットプリントが大きい業界は、「エネルギー効率」を重視している。
なお、「情報公開体制」のセクションでは、キヤノンが最優良事例に選ばれている。キヤノンは、米国証券取引委員会に提出した2007年版年次報告書(Form 20-F)の「環境規制」の項目において、京都議定書と日本の排出削減義務に関する議論を記載している。また、「リスク要因」の項目でも、「キヤノンは、製品を輸送する際に、鉄道や船舶を多く利用することで、二酸化炭素の排出削減に努めている。キヤノンが削減目標を達成しなければ、ブランドイメージと業績にマイナスの影響が出る可能性がある」と、述べられている。
- <表1>