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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT

海外レポートサマリー:東南アジアでの気候変動の経済学:地域的評価:アジア開発銀行(2009年4月) The Economics of Climate Change in Southeast Asia:A Regional Review : Asian Development Bank(ADB) April 2009

著者: ADB研究チーム(ADB Study Team)
発行: アジア開発銀行(Asian Development Bank(ADB))ウェブサイト
発行日: 2009年4月
ページ数: 253ページ
入手先: PDFダウンロード
  • 『東南アジアでの気候変動の経済学:地域的評価』は、アジア開発銀行(ADB)の技術援助プロジェクト「気候変動経済学の地域的評価」において、英国政府の資金援助により15ヵ月にわたり東南アジアおける気候変動の経済的影響について調査研究した結果をまとめたもの。特にインドネシア、シンガポール、タイ、およびベトナムの4カ国に焦点を当てて、気候変動がこの地域において経済や政策にどのような影響を与えているかを探り、一刻も早く対策に取り組むための最優先課題について示唆するものである。
  • アジア開発銀行(Asian Development Bank、ADB):アジア太平洋地域の開発途上加盟国に対し、資金・技術援助を通して社会的・経済的発展を促進することを目的として設立された国際開発金融機関。1963年の第1回アジア経済協力閣僚会議において、アジアに地域開発銀行を設置する提案が承認され、1966年に国連のアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)が中心となって発足した。現在は67の国と地域が加盟。本部はフィリピン・マニラにあり、世界26ヵ所に事務所が設置されている。日本は、財務大臣が総裁に任命されている他、財政面でもアメリカと並ぶ2大出資国の一つであり、2007年12月末現在で総資本の15.57%を出資している。

概要

気候変動はいまや東南アジアでも進行しつつあるが、まだ最悪の事態には至っていない。とはいえ、いま適切な取り組みをしなければ、東南アジアにおける持続的発展も、貧困撲滅のための努力も後退してしまうことになる。もう時間の猶予はない。

本報告書は、東南アジアの中でも、インドネシア、フィリピン、タイ、およびベトナムを中心に調査を行ったもの。本書は4部構成となっており、第一部は東南アジアにおける気候変動の背景と各地域の状況について、第二部は気候変動の影響と適応策、第三部は気候変動の緩和策に触れており、第四部ではこれまでの政策を振り返り今後に向けた奨励案を示唆している。

東南アジアは、その人口のほとんどが沿岸域に集中しており、主な産業は農業である。農業への依存度の高さが、温暖化に伴って起こる干ばつや、洪水、熱帯低気圧への脆さとなり、経済的には自然資源や林業に大きく依存しているために、気候変動によって引き起こされる極端な天候や森林火災が、この地域の生命線である輸出産業を脅かしている。

本報告書では、さまざまな気候変動の実態とその影響を評価すると同時に、この地域の気候変動の影響を予測するために実施されてきた既存の調査結果やモデリング調査を検証し、このまま何も行動を起こさなければ、さらなる脅威にさらされる可能性が高いと述べている。

東南アジアは、地球温暖化によって平均気温の上昇や海面の上昇、降雨パターンの変化などの影響を受けると予測されているが、コメの生産量にも影響が現れる可能性がある。インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムでの生産量は、2100年までに1990年に比べて年平均で50%にまで落ち込むと見られている。また、主要な森林の大部分は、二酸化炭素(CO2)を少量またはまったく吸収しない熱帯サバナ(乾林)や低木へと様変わりしてしまうだろう。

つまり、このまま何もしなければ莫大な経済損失を被ることになる。もし世界が「これまでどおりのやり方」でCO2を排出し続ければ、上記4カ国は2100年まで毎年、4カ国のGDP合計額の6.7%を失うことになる。この額は世界平均の2倍以上にあたる。

また、影響を軽減する上では適応策も重要だが、東南アジアは温暖化の適応策を講じることが最も必要な地域のひとつである。本報告書では、広範囲にわたる適応策がすでに取られている実例を紹介すると共に、最優先課題として次のように提案している。

  1. 気候変動およびその影響に対する人々の関心を高めるための努力をする。
  2. 気候変動というものを理解するためのさらに詳しい調査を行う。
  3. 気候変動に適応するため、省庁およびさまざまなレベルの政府機関全体が政策や計画をより質の高いものとする。
  4. 影響を受けやすい団体や地域が、適応力や衝撃からの回復力を持つために、より総合的な方法を採用する。
  5. 主要な産業において、適応策をより積極的な体系的かつ統合的なものに改善し、採用する。それが費用効率を向上し、長期にわたって耐久性のある解決方法である。

適応策が特に求められるのは、水資源、農業、林業、沿岸および海洋資源、保健の分野である。分野別に見ると、以下のようになっている。

  • 水資源:水の保全と管理の機能を高め、総合的な水管理の幅広い活用
  • 農業:より効率的な土地や農地の管理による排出削減
  • 林業:森林火災を防ぐための早期警戒システムの導入や、森林再生や植林を官民一体となる協力の推進
  • 沿岸および海洋資源:マングローブの保全および植林を含む、総合的な海洋域の管理計画の実施
  • 保健:病気の発生、蔓延を防ぐための早期警戒システムや、健康監視体制、感染症対策プログラムの実施およびその範囲の拡大 などで、それに加えて、気候変動に耐えられるような交通機関への投資やインフラ整備も必要だ。

東南アジアには、その影響を軽減できる可能性がある。また、気候変動の影響を受けやすい地域であるがゆえに、世界全体としてその解決に取り組む上で、東南アジアが果たす役割は重要である。本報告書は適応と緩和を2本柱としているが、緩和策としては、分野別に下記のように提案している。

  • 林業:地域の技術的能力、制度面での能力を向上して、森林の炭素蓄積量を保証。森林減少・劣化に由来する温室効果ガスの排出抑制(REDD)への対応策を講じる。
  • エネルギー産業:東南アジアにとって一石二鳥効果となる緩和を実行するために、緩和策を採用する上で拘束力のある規制を特定し、その規制を緩める。
  • 農業:より効率よく土地や農場の管理をする。
  • 資金および技術の移転:国際的な資金調達および技術移転を行う。また、その活用を期すため、制度面での能力を向上させなければならず、クリーン開発メカニズム(CDM)、REDD関連やその他の経済的メカニズムを有効に利用する。
  • 地域的協力:費用対効果を得るため、一国のみではなく、地域全体で対策に取り組む。また緩和策を実施する上でも地域が協力し合った方が効果的。長期的には地域の自発的な排出権取引制度を視野に入れることも可能。
  • 政策協調(調整):環境省や関連機関だけでなく、経済・財務省庁も協調すれば政府間機関の政策調整ができる。また中央政府と各自治体との調整機構を導入または強化すれば、地方でも自立した適応策が行える。効果的に協調していくためには、中央政府の強力な指導力が求められる。
  • 調査・研究:気候変動問題をより深く理解し、費用対効果の高い解決策を地方においても実行していくために、更に詳しい調査・研究を行い、認識度の格差をなくす。

そして、本報告書は、現在の経済危機こそが、チャンスである、と示唆する。 2009年に開催されたロンドン・サミットでは、参加した20の国と地域が、持続可能で、環境投資によって経済復興した世界を築くことを目標に、財政面からの景気刺激プログラムによって、低炭素な技術と社会基盤を作ることに同意した。

東南アジアにおいても、現在の危機は、気候変動に耐え得る低炭素型経済へと移行するチャンスとなる。インドネシア、フィリピン、シンガポールおよびタイでは、財政面から景気を刺激することで、減税や基盤への投資などを通じて国内の需要を支援し、社会計画への投資を増やそうとしている。そのなかで、景気のてこ入れや、雇用創出、貧困撲滅などの取り組みを気候変動の適応策や緩和策に組み合わせた「グリーン投資」プログラムを景気刺激策とすることも可能だと指摘している。

なお、本報告書では、日本の地球環境産業技術研究機構(RITE)が開発した「DEN21+モデル」が調査に用いられている。

また気候変動の緩和策・適応策の取り組みに対する融資として、日本の融資プログラムも紹介されているほか、ADBが国際的および地域的な支援イニシアティブとして行っている主な基金(気候変動基金(CCF)、クリーン・エネルギー・ファイナンシング・パートナーシップ・ファシリティ(CEFPF)、アジア太平洋炭素基金(APCF)、未来炭素基金(FCF))のうち、CEPFPに対する日本の財政支援なども紹介されている。

 
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