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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | Jan Burck, Christoph Bals, Verena Rosso |
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発行: | ジャーマン・ウォッチ(Germanwatch)ボン事務所、ベルリン事務所 http://www.germanwatch.org/ 気候行動ネットワークヨーロッパ(Climate Action Network Europe(CAN-E)) http://www.climnet.org/ |
発行日: | 2009年12月 |
ページ数: | 20ページ |
入手先: | PDFダウンロード |
- 気候変動パフォーマンス・インデックス(CCPI)は、合計で地球上の90%以上のCO2(エネルギー起源)を排出している57カ国を対象に、各国のCO2排出量や気候変動政策を評価・比較し、ランクづけしたもの。世界の気候政策が明確に分かる革新的な手段として2006年に始まり、2010年は5回目となる。 これまで気候変動防止に積極的に取り組んできておらず、今なおこの問題の重要性を顧みないでいる国々への政治的・社会的圧力を強めるのがねらい。
- ジャーマン・ウォッチ(Germanwatch):1991年の設立以来、貿易、環境、南北問題について国内はもとより、ヨーロッパ・国際レベルで活動を展開するドイツの環境NGO。
- 気候行動ネットワークヨーロッパ(Climate Action Network Europe(CAN-E)):気候とエネルギー問題に取り組んでいるヨーロッパ有数のNGO(参加国25カ国、加盟団体数100以上)。気候行動ネットワークは、国際的に活動している組織で、世界各国の365余のNGOと連携して、危険な気候変動の抑制及び、持続可能なエネルギーと環境対策を促進していくことを国や企業、個人に働きかけている。
概要
2009年は、コペンハーゲンでの気候変動サミットに向けて気候変動問題への意識が高まっていたにも関わらず、前年同様、危険な気候変動を回避し、気温の上昇を2℃以下に抑えるという目標に対し、実質的な面で十分な貢献が認められた国はなかった。
CCPI総合評価(表1)は、最も優れている順に57カ国をランク付けしたもの。2009年版と同じく1位から3位に該当する国はなかった。特筆すべきは、先進国に混じって、新興経済国がこれまでより多く上位に入ってきている点で、4位(最上位)は前回8位だったブラジル。5位以下は、スウェーデン、英国、ドイツ、フランス、インド、ノルウェー、メキシコと続いている。日本は57カ国中35位で、前回の43位から順位を上げている。米国は53位(前回58位)、最下位は前回と変わらずサウジアラビアとなっている。ブラジルが順位を上げたのは、この数カ月の間、森林破壊の抑制で大きな進歩を見せたからだ。ただし、この抑制が、昨今の経済危機によりパーム油や大豆の需要が減少した結果かどうかは明らかでない。
排出量の動向に関しては、オーストラリア、中国、サウジアラビア、オーストリアが特に悪かった。とりわけ、サウジアラビアの実績は、必要な気候保護のレベルに程遠いものである。排出量レベルで低い評価を受けたのは、米国、カナダ、ロシア。米国は前回よりもいくつか順位を上げたが、オバマ大統領の新たな気候政策が排出量の削減につながり、米国が国際社会で気候変動対策における主導的な立場をとれるような政策であるかはまだ証明されていない。
英国は気候変動法案を可決したが、このような流れがうまく進めば、継続的な排出量削減につながり、来年のCCPIにおいて英国の順位が上がる可能性もある。
CO2排出量上位10カ国(表2)の1位は前回2位の中国であり、前回1位の米国は2位へと順位が逆転した。3位以下9位までは、昨年と同じくロシア、インド、日本、ドイツ、カナダ、英国、韓国と続き、10位は前回のイタリアに代わってイランが入っている。この上位10カ国のCO2排出量を合計すると、地球上に排出されるCO2の60%以上になる。この10カ国の持続可能な気候変動政策を実現する意志と能力が、気候変動の非常に危険な状態を回避するための重要条件になるだろうとの指摘は、2009年版のCCPIでの指摘と変わらない。
気候の保護がどの程度進んでいるかを5段階評価し、段階ごとに色分けした世界地図を元に作成した一覧表は次のとおり。(2010年も「優」の国はない)
良 | スウェーデン、ノルウェー、ドイツ、フランス、英国、インド*、メキシコ、ブラジル* |
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平均的 | スペイン、ポルトガル、モロッコ、アルジェリア、スイス、ベルギー、オランダ、デンマーク、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ベラルーシ、ラトビア、リトアニア、エストニア、アイスランド、アイルランド、マルタ、アルゼンチン、南アフリカ共和国、タイ*、インドネシア*、日本 |
乏しい | フィンランド、ロシア、ウクライナ、イタリア、スロベニア、ブルガリア、オーストリア、トルコ、イラン、韓国、台湾、シンガポール |
大変に乏しい | ポーランド、クロアチア、ルクセンブルク、カザフスタン、ギリシャ、キプロス、中国、マレーシア、サウジアラビア、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド |
*これらの国の全排出量の10%以上が土地利用の変化によるもの。ただし関連するデータのない国もあることから、指標の評価には森林伐採や土地利用による排出量は考慮していない。
この世界地図では、カナダ、米国、ロシア、さらに、オーストリア、イタリア、ポーランドなど多くのEU加盟国をはじめとする世界の大半の国で、適切な気候保護がなされていないことが明らかとなった。
また、排出量の動き、排出量レベル、気候政策についても5段階で評価し、それぞれの結果を世界地図に表している。
排出量の動向では、気候変動を阻止するため十分効果的に削減できている国は今回も皆無だった。評価が特に低かったのはオーストラリア、中国、サウジアラビアだった。しかし中には、再生可能エネルギーの割合を拡大しつつあるなど、将来有望な国もある。特に注目されるのは、チェコ、ドイツ、ベルギーである。
排出量レベルが特に高かったのは、米国、カナダ、オーストラリアだった。この3国は責任も大きいが、排出量を減らす可能性も大きい。
気候政策面でも「優」とされる国は一つもなく、法によって長期的な気候の保護を取り締まっているのは英国のみである。一方で、産業化が進むインド、メキシコ、南アフリカ共和国、中国の気候政策への取り組みは、とりわけ顕著である。ブラジルも追いつきつつあり、こうした国々の中には、国連の気候変動会議の交渉で、これまでに増して建設的な役割を果たした国もある。しかし本レポートは、今後はこうした国々をより効果的に国際的な枠組みに組み入れ、将来の取組みには十分な支援を行うことが必要となると指摘する。排出大国である米国は、昨年に比べ、より前向きな姿勢を見せているが、それだけでは排出量削減にはつながらない。なお、気候政策における日本の評価は前回の「大変乏しい」から、「乏しい」になった。
また本レポートでは、総合4位(57カ国中トップ)のブラジルと59位(57カ国中最下位から2番目)のカナダを比較している。
この2カ国の大きな違いは、現在の排出量に見られる。カナダの排出量レベルが高いのは、同国の経済がエネルギー集約型であることと、国民一人当たりのエネルギー消費量が他国に比べて非常に高いことによる。GDP一単位当たりの一次エネルギーの分野における実績を見ると、カナダは52位、ブラジルは22位だった。また、国民一人当たりの一次エネルギーでは、カナダが58位、ブラジルは8位。排出量レベルの総合評価では、カナダが45位、ブラジルが5位である。ただし、これはエネルギー由来の排出量データのみによる比較結果であり、土地利用の変化による排出量は、データが不十分であるため考慮されていない。
再生可能エネルギーの開発については、ブラジルが35%増加したのに対し、カナダはわずか4.3%の増加にとどまった。しかしながら、運輸部門のうち国際空輸に関するカナダの実績は優れており、30%の排出量削減に成功、4位となった。
政策面については、ブラジルは、新しい森林保護対策で向上した。同国の取組みは、国内の気候専門家やNGO代表にも支持されている。2009年には、2020年までに36.1~38.9%の温室効果ガスを削減するという野心的な目標も発表している。一方、カナダは、今年も自国の専門家たちから「大変乏しい」との評価を受け、2020年までの排出量削減計画を打ち立てることが必要である。
ブラジルは、インドと同様、気候変動対策に関する国際外交も大きく進めた。カナダについては、現政府が、国内でも国際的なレベルでも、真剣に気候政策を実施するのに必要な根本を今なお認識していないと指摘している。