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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | Douglas G. Cogan |
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発行: | セリーズ(CERES) http://www.ceres.org/ リスクメトリックス・グループ(RiskMetrics Group Inc.) http://www.riskmetrics.com/ |
発行日: | 2008年1月 |
ページ数: | 64ページ |
入手先: | PDFダウンロード |
- 米国のセリーズ(CERES)が世界の大手金融機関を対象に、各社の気候変動に関するガバナンス状況を調査・分析したもの。気候変動をめぐって世界のビジネスと金融が新しい動きが見せているなか、金融業界の気候変動対策を概観する本レポートも注目を集めている。
- セリーズ(CERES):米国の投資家、環境団体、その他公益団体の連合。企業と地球温暖化など持続可能性問題に取り組む。
- リスクメトリックス・グループ(RiskMetrics Group Inc.):米国のリスクマネジメント、コーポレート・ガバナンス、金融に関するリサーチ・分析専門会社。
概要
「コーポレート・ガバナンスと気候変動:金融業界」は、北南米、欧州、アジア3地域の大手金融機関40社を対象に、気候変動に関するガバナンス状況を調査・分析し、ランク付けしたものである。金融業界における気候変動対策の成功事例を評価するベンチマークツールとなることを狙いに作成されている。
本レポートは、「1.エグゼクティブ・サマリー(評価方法、得点結果、最良事例、企業別調査結果*1)」「2.概説(金融業界における気候変動の影響)」「3.分析結果」「4.結論」の4部構成。1.にある企業別調査結果では、2.で分析した評価分類におけるデータが詳細に記載されている。付録として、企業別調査結果の項目説明、調査で使用した各社発行の各種報告書、気候変動関連の指標、基金、団体、イニシアチブなどのリストなどが含まれている。
調査では、様々な地域および金融業種を分析するために、株式上場している世界の金融機関トップ40社を対象とした。地域別内訳は、米国16社、欧州15社(英国3社、フランス3社、オランダ2社、スイス2社、イタリア社1、スコットランド1社、スペイン1社、ドイツ1社、ベルギー1社)、アジア5社(中国2社、日本3社)、カナダ3社、ブラジル1社。日本からは三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下三菱UFJ)、三井住友フィナンシャルグループ(以下三井住友)、みずほフィナンシャルグループ(以下みずほ)が対象となった。業種別内訳は、総合金融機関29社、投資銀行5社、資産運用会社6社。40社の時価総額の合計(約3兆6,000億ドル)は、全世界における株式上場金融機関の時価総額の60%を占める。
評価では、リスクメトリックス・グループが開発した「気候変動ガバナンス・チェックリスト」を使用した。このチェックリストは、100点満点の点数制で企業の温暖化対策を評価し、様々な産業に適用できるように作られている。評価は5つのガバナンス分野の合計14の項目について行う。本調査では、金融機関の取り組みを適切に評価できるよう、「取締役会や経営陣が戦略的に気候変動対策を講じているか」「気候変動に伴うリスク・機会を融資・投資・証券業務に戦略的に取り入れているか」といった点を重視する配点にした。5つの分野と本調査の配点は、1.取締役会の監督体制(最高16点)、2.経営執行体制(同22点)、3.情報公開体制(同18点)、4.温室効果ガス排出会計(同14点)、5.戦略計画体制(同30点)(表1)。評価用材料として、各社の有価証券報告書、年次報告書などの各種報告書、ウェブサイト、関係第三者へのアンケート、各社からの情報収集結果を使用した。
ランク付けは、業種別と総合で行った(表2)。業種別ランクの総合金融機関部門では、トップのHSBCホールディングス(英国、70点)以下、18位までが欧米勢であった。資産運用会社部門と投資銀行部門は米国のみであったが、総合金融機関部門に比べ得点が低かった。総合ランクでは、1位のHSBCホールディングスをはじめ、上位5位までが欧州勢で、6位(59点)、7位(56点)に米国の2社が続き、上位21位までを欧米勢が占めた。アジア勢の最高位は22位(39点)の三菱UFJ、新興国では32位(14点)のブラジル銀行が最高位であった。
全体的な分析結果としては、環境方針、リスクマネジメント、商品開発で気候変動を取り入れる戦略では欧州勢が優位とした。米国を含むその他の地域の企業では、気候変動リスクの情報公開における改善努力がなされていると評価。また気候変動リスクの情報公開と経営執行体制においては新興国勢と資産運用会社が最も遅れていると指摘している。
「2.概説」では、「気候の『メガトレンド』(The Climate ‘Mega-Trend’)」と題し、気候変動の現状と、あらゆる面でその影響を受けて大きく変貌しつつある世界の金融業界の状況について解説している。
「3.分析結果」では、気候ガバナンス、温室効果ガスに対する社内管理体制、融資、投資・金融商品、炭素取引の5分野における大手金融業界の傾向について、評価の高かった企業を例に挙げて分析している。
「4.結論」では、「本調査で、金融業界は対策を講じ始めているものの、厳しい苦労と困難な選択が前途に待ち受けていることが明らかになった」と総括している。そして、気候の温暖化や新たな炭素削減規制の導入で、生産コスト、証券価格、債務額、資産額などが大きく変わるため、「今後は、何も対策をとらない炭素集約型事業への融資機会を金融機関が断れるようになるかが試金石となる」と分析。さらに、「金融機関は、気候変動対策に取り組むことで、産業やビジネスの創出、気候変動被害による負債軽減、富と資本の形成における指導力の維持が可能となる」と結論付けている。
日本の3社については、総合ランキングでの順位が、三菱UFJ(39点)の22位を最高に、三井住友(33点)が24位、みずほ(24点)が30位と「中の下」であった。企業別調査結果を見ると、3社とも「情報公開」と「温室効果ガス排出会計」において特に点数が低かった。三菱UFJの点数が3社中で最も高かったのは、同社が「取締役会の監督体制」で、気候変動担当の役員を設けていることなどが評価されたからである。一方、「3.分析結果」では、3社が実施している「一定の環境基準を満たした中小企業に対する融資金利優遇制度」、三菱UFJとみずほによる「プロジェクトファイナンスにおけるカーボンアカウンティング(炭素会計)の導入」、三菱UFJと三井住友による「排出権信託商品の提供」について言及されるなど、部分的に評価された点もあった。
*1:ウェブ版では地域別にPDFファイルが掲載されており、企業別調査結果は該当地域のファイルに含まれている。