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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | David St. Maur Sheil |
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発行: | Association for Sustainable & Responsible Investment in Asia(ASrIA) http://www.asria.org/ http://www.asria.org/japanese Copyright © ASrIA 2009 |
発行日: | 2009年9月 |
ページ数: | 50ページ |
入手先: | http://list.asria.org/sri/report/report.html |
- Association for Sustainable & Responsible Investment in Asia (ASrIA) :ASrIAは、2001年の創設以来、アジア太平洋地域において企業の社会責任と持続可能な投資を推進している非営利の会員制組織。会議やセミナー、ワークショップの開催などを通し、SRI(Socially Responsible Investment、またはSustainable and Responsible Investment :社会的/持続的責任投資)の認識向上や活動促進を図るほか、SRIに関する広範囲な調査も行っている。
概要
本レポートは、日本を除くアジア諸国を対象としたカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)の調査結果をまとめたもの。CDPとは、機関投資家が連携し、世界中の大企業に気候変動と温室効果ガス(GHG)排出によるビジネスリスク/チャンスについて、情報の開示を求めるもの。現在は385の機関投資家が参加しており、合計運用資産は57兆ドルにのぼる。2001年から始まり6回目となる今年の調査では、昨年の倍となる合計127の企業から回答があった。回答率は各部門とも約20%だが、中でもIT部門は70%以上と際立った。さらに広範な事業データと測定基準が提供されたことも今回特筆すべきことの一つとなった。
また投資家にとっては、以下の4つの主要な傾向を示す結果となった。
1.緩和から適応へ
規制の不確実性が続く中、企業は予期される規制条件よりも高い基準を満たすことに注目し始めている。異常気象による影響が、企業にとって、より広範囲に及ぶリスクをもたらすことを認識する一方、そこからチャンスが生まれている。企業は自らの産業がどのような影響やリスクを被るのか、また、潜在的なチャンスがどのように到来するのかを考慮し、問題の全体像を固めている。
2.より実質的な排出量と事業データの開示
企業は、より広範な排出量と事業データを公表し始め、投資家にとって確かな情報を提供している。
アジア500(67社)の53%が、排出量データを提供した。ほとんどの企業が、Scope1(GHG直接排出量)、Scope2(GHG間接排出量)のデータのほか、Scope3(その他のGHG間接排出量)を公表。さらに、CO2排出原単位の数値や排出削減目標も公表した。このようなデータの公表が増えていることは、アジアの主要企業が気候変動問題に建設的かつ実践的に取り組んでいることを示す明らかな兆候である。
3.IT部門が回答とデータで他部門をリード
IT部門は、70%以上がこのプロジェクトに回答を寄せた。排出量の公開率も80%を超えており、CDPへのより積極的な参加が見られる。IT企業が、ビジネスリスクをより広範囲に明らかにし始めるとともに、チャンスの開拓も始めていることは注目に値する。
4.韓国が突出、インドの台頭も力強い
今回の調査で大きく注目されるのは、50%以上の回答率だった韓国である。台湾も回答率が大幅に上昇したが、回答企業はIT部門に集中した。一方、韓国の回答企業は、金融、IT、工業をはじめとする11部門にわたった。各部門とも、それぞれの産業に関連する政策の確立を目指し、数年前から政府と緊密な協議を行っている。また、インドも情報開示に積極的な姿勢が見られる。インドの回答の詳細は今年末に発表の予定。
さらに本レポートは、「事業データ」、「気候変動対策とCDM(クリーン開発メカニズム)」、「データ分析」、「CDPの概観」と続く。
「事業データ」では、取り組みに対する概念、投資、実績が明確に示された例として、不動産企業と台湾の電気産業の報告事例を紹介。「気候変動対策とCDM」では、企業の気候変動対策の事例を、計画段階のものも含めて取り上げる。
「データ分析」については、背景としてCDPの経緯に触れたのち、今回の調査の概観、ベテラン参加者と新規参加者のデータ公開の割合、地域別(中国・インド・韓国、この3カ国と日本を除くアジアの4つに大別)と部門別の分析(一般消費財、生活必需品、エネルギー、金融、医療、工業、IT,素材、通信、公共事業)、香港とシンガポールの企業の回答状況、企業の指針の分析と排出量公開率、といった項目で、今回の調査の特徴を表やグラフを示しながら、上記4点を含む内容を詳しく解説している。
さらに、アジア全体の総括として、以下のことを挙げている。
- アジアの多くの企業は、気候変動問題への取り組みについて、第一段階をうまく乗り越えた。現在は、データを分析し、実践的な方法で気候変動問題に取り組んでいる状態だ。こうした企業は、プログラムの効率や実用性について、討論や企業間の交流を図るといったような、より高いレベルへと移行している。
- 企業のデータやフットプリントの評価については、多くの企業が専門的知識を備えたチームをつくっているが、一方で、真の取組みやリーダーシップに欠けている企業もある。
- 企業の気候変動対策プログラムについては、多くの企業が最高経営責任者(CEO)に監督されているか、直接報告しているが、中には企業内の委員会に提出している企業もある。
- 多くの企業が優れた目標を立て、気候変動対策に対する多くの指導者の着眼点は、緩和策から適応策へと変わりつつある。
以上のことから、アジアのすべての主要産業部門における企業は、より広範囲にわたり、真に実践的な進歩を見せているが、対処すべき重要な課題はいまだ多く残されているとの全体像をまとめている。
「CDPの概観」では、「金融市場や世界経済の混迷が、企業の情報開示や高度なリスク管理の必要性を浮彫りにした」という記述に始まり、CDPの重要性を強調する。気候変動の影響は、これまでに例のない破壊や混乱を引き起こす可能性があるため、政策決定者、企業、投資家が、関連するリスクやチャンスについて深く理解することが不可欠だとし、CDPは1,800以上の企業が気候変動戦略や温室効果ガス排出量を報告する動機付けだと主張する。
今年は、新興経済国の中国や南アフリカ、そして韓国からの回答に目覚ましい成長があった。公表されるデータの質、量がともに著しく向上する一方で、企業行動を変える促進剤としてのデータの活用も増えている。800以上の企業がCDPを通して気候変動問題に対する戦略を顧客に報告しており、CDPデータは調達事業に多く利用されるようになっているという。調達担当者は気候変動によるサプライチェーンへの影響を理解し、今後の調達体制のあり方を検討し始めている。
排出量の測定は排出量の管理及び削減の中心となるものである。排出量の削減を義務付けるために規制の枠組みが発達すれば、CDPの果たす役割も拡大する。CDPでは、今後も炭素排出量についての情報を伝える拠点であり続けるため、データの比較機能の向上やベンチマークサービスの促進、投資分析や規制の提案にふさわしいデータの提供を目指して、システムの大幅なアップグレードを進めている。
その他、コペンハーゲン会議での合意や各国の政府と企業との連携強化に向けて、CDPの重要性を強調。本レポートは、コペンハーゲン会議後も、危険な気候変動に立ち向かうための世界的なシステムを構築することが極めて重要だとし、CDPは今後も企業の情報開示に注目、専念すると結んでいる。
なお、本レポートは「日本を除くアジア」が対象となっているため、日本に関する記述はほとんどないが、付録資料の中の『部門別 日本とアジア500社のCDP」(CDP Japan & Asia 500, Sector Insight)の中で、日本の鉄鋼、電気業界(日立、パナソニック、キャノン、富士通、ソニー)の情報を紹介している。