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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | Niklas Höhne、Katja Eisbrenner、Marion Vieweg、Jan Burck、Linde Grießhaber |
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発行: | 世界自然保護基金(WWF) http://www.panda.org/ 第三世代環境主義(E3G) http://www.e3g.org/index.php |
発行日: | 2009年11月5日 |
ページ数: | 46ページ |
入手先: | http://assets.panda.org/downloads/ scorecards_2009_11_02_online_version_final.pdf |
- 地球温暖化の抑制と経済回復を同時に進める包括的な政策が世界各国に求められている現状を踏まえ、G20諸国とその他数カ国の気候変動政策を分析・評価したもの。報告書の概要と結論、評価方法をまとめた後、「ベスト政策」と「ワースト政策」のスコアカードを紹介する。各スコアカードには、その政策の内容、環境的影響、経済的影響、外部への広がり、改善点などを分かりやすく掲載。本報告書は、世界自然保護基金(WWF)と第三世代環境主義(E3G)の依頼により、調査会社Ecofysと環境NGOジャーマン・ウォッチが執筆した。
- 世界自然保護基金(WWF):1961年に設立された環境保護団体。生物多様性の保全から自然資源の持続可能な利用、環境汚染と浪費の抑制まで幅広い活動を展開する。本部はスイス。
- 第三世代環境主義(E3G):持続可能な発展の実現を目的とする英国のNPO団体。政府、企業、市民団体と連携し、気候政策やエネルギー政策の政策提言に取り組む。2004年に設立。
- Ecofys:1984年に設立された再生可能エネルギーと省エネルギー、気候政策を専門とするオランダの調査会社。調査及びコンサルタント、製品開発に携わる。
http://www.ecofys.com/ - ジャーマン・ウォッチ(Germanwatch):1991年の設立以来、世界の平等と人々の暮らしの保護を目的に「監視する、分析する、行動する」をモットーに活動するドイツの環境NGO。
http://www.germanwatch.org/
概要
気候変動と経済回復は、ハイレベルの政策協議において中心的議題となっている。現在では、気候を安全に守り、経済を高めるための取り組みを統合することが不可欠だが、十分に計画された気候政策でも経済効果が望めないこともある。
本報告書では、環境的かつ経済的に効果的な12のベスト政策と、低炭素経済構築の障害となっている5つのワースト政策を、スコアカードの形で紹介する。各カードには、環境/経済/外部への影響のほか、成功の秘訣、改善点などが記載されている。ベスト政策のスコア配分を図1に示す。
今回の分析では、「経済規模が大きく、大胆な行動が求められている」という理由でG20諸国と数カ国に焦点を当てた。約100の政策を対象に、次のカテゴリーでランク付けした。
- 環境的影響(最高12点):温室効果ガス排出量を短期的/長期的に削減している、環境配慮型技術に対して良いロックイン効果をもたらしているなど、ポジティブな環境効果をもたらしている。
- 経済的影響(最高12点):社会への財政的利益がコストを上回っている、新規雇用が創出されている、投資の際の障壁が取り除かれている、経済革新を促しているなど。
- 外部への普及(最高3点):ほかの国や市などにうまく適用されている。
12のベスト政策は次のとおり。ここでは、政策の内容と主な影響を紹介する。日本は第8位。
- 省エネ建物の総合的政策(ドイツ/得点17.2)
新築建築の省エネ基準を強化する「省エネルギー指令(EnEV)」、建物の暖房に再生可能エネルギーの利用を義務付ける「再生可能エネルギー暖房法(EEWärmeG)」、ドイツ復興金融公庫(kfw)銀行グループによる融資プログラム、再生可能エネルギー・市場誘引プログラム(Marktanreizprogramm:MAP)の一括政策。建物のエネルギー効率が、1平方メートル当たり約120kWh/m2a(床面積1m2あたりの年間のエネルギー使用量)から新築建物では約60 kWh/m²aに改善。- 再生可能エネルギー法/固定価格買取制度(ドイツ/得点15.0)
電力会社が20年間、再生可能エネルギーによる電力を優先して配電し、供給業者にキロワット時単位で決められた価格を支払う。電力価格の増加分は電力利用者に転嫁され、平均的な家庭(1カ月の使用量が3,500kWh)で月間3.1ユーロ(約408円)を負担する。再生可能エネルギー法により、2008年には5,600万トンのCO2排出量を削減。- バス高速輸送システム(メキシコ/得点14.2)
2005年の開始以来、路線を拡大。輸送効率が向上し、交通混雑も緩和。2008年から2009年までに削減した温室効果ガス排出量はCO2換算で約107,000トン。医療給付金は年平均300万ドル(2億6,000万円)。- 耐候化支援プログラム(WAP:Weatherization Assistance Program)」(米国/得点13.8)
低所得世帯が、エネルギー使用量削減により外国からの石油依存を軽減するとともに、エネルギー消費量とコスト削減を支援する法案(Energy Conservation and Production Act)に基づき、1976年に作成。2009年の米国経済再生法(ARRA:American Recovery and Reinvestment)で、耐候化の規模拡大を図る州に対し、50億ドル(約4,390億円)が割り当てられることになる。これまでのところ、620万世帯の耐候化により年間90億kWh超が節電。耐候化した世帯は、前年比で350ドル(約30万円)の節約が見込まれている。- 再生可能エネルギー生産税/投資税控除(PTC:Renewable Energy Production Tax / ITC:Investment Tax Credit)(米国/得点13.7)
PTCでは、風力、太陽光、地熱、バイオエネルギーで発電している企業に対し、1キロワット時当たり2.1セント(約1.8円)を助成。ITCは、その他の再生可能エネルギー(小規模灌漑システムや埋立地ガスなど)に対し、1キロワット時当たり1セント(約90銭)の税控除を行う。両政策により年間1,000万トン(CO2換算)が削減。- 森林破壊による排出量削減(ブラジル/得点13.5)
アマゾンの森林破壊を防ぎ、抑制するための行動計画(PPCDAM:Action Plan for the Prevention and Control of Deforestation in the Legal Amazon)が2003年に施行。施行から2008年までに148区域が新たに保護区域とされ、2004年から2007年までに森林破壊は約59%減少。- 新築住宅・業務用建物への太陽エネルギー導入(スペイン/得点12.7)
業務用建物への太陽光発電装置の設置だけでなく、新築住宅と業務用建物に集光型太陽熱装置の設置を義務付ける。設置は、国や地方の税優遇策や補助金、低金利の融資で支援。2008年には466,000平方メートル分の太陽エネルギーシステムが設置、年間349,500トンのCO2排出量を削減した。- 省エネルギー基準を設定したトップランナー方式(日本/得点11.5)
家庭・業務・運輸部門も含め、機器や装置のエネルギー効率や車の燃費の向上を目的に、分野ごとに省エネ基準値を設ける。基準値は最もエネルギー効率が優れている機器の性能を上回るように定期的に見直される。これによりエネルギー効率は、ディーゼル車(21.1%)からコンピューター(99.1%)まで多岐にわたる製品において向上した。また家庭部門で約600万kWh、運輸部門で推定300万kWhが節電(2005年)。電化製品と自動車の主要輸出国であるため、国内の経済効率を高めるだけでなく、国外の利益も促進する。- 商用車に対する圧縮天然ガス(CNG)燃料の義務化(インド/得点11.0)
小型トラックや中型バスなどの業務用車両にCNGを使用することを義務付けたもの。デリーで2001年にスタートした。義務化を支援するため、デリー市政府は、燃料をCNGに転換した車両に補助金供与、CNGを扱う民間業者に税控除を実施。2000年から2008年までの炭素排出量は72%削減された。義務化されてから約1万のCNGステーションが設置されている。- エネルギー効率コミットメント(EEC:Energy Efficiency Commitment)」(英国/得点10.8)
国内の大規模エネルギー供給業者に、家庭のエネルギー効率を向上するための目標達成を義務付ける。業者は、省エネ対策(断熱、家電、暖房、照明)を導入するコストを大幅削減するため、広範囲のサービスを消費者に提供する。節約されたエネルギーは、2,740億kWh。炭素削減量は年間推定1,500万トン。- EU域内排出量取引制度(ETS:European Emission Trading)」(欧州連合(EU)/得点10.3)
EU域内のすべての施設を対象に、温室効果ガス排出量に上限を設定することで排出量を抑える。施設や企業は、加盟国間で排出枠を自由に取引し、それぞれの年間排出量を上限値以内に抑えなければならない。長期的にはもちろん、短期的にも排出量削減をもたらしている。- 企業1,000社を対象にしたエネルギー効率化計画(中国/得点10.2)
国内で最もエネルギー集約度の高い企業1,000社のエネルギー消費量を削減するのがねらい。国全体で、エネルギー原単位20%削減を目標としている。国は、1,000社に対し、よりよい責任分担、エネルギー管理と監査、技術革新によるエネルギー効率向上を求める一方、節約したエネルギーの量に応じて奨励金を供与している。
一方、ワースト政策のスコアカードに挙げられているのは5つ。これらが逆方向に進めば、大幅に排出量を削減でき、自由に財源を利用し、環境に優しいやり方で経済を促進できる。
- 石炭採掘への補助金(オーストラリアなど)
- エネルギー集約型企業に対する優遇制度(ドイツ、オーストラリア、オランダなど)
- 原子力発電への補助金(フランス、日本、ドイツなど)
- 乾燥/半乾燥地域における包括的な水管理の欠如
- 国際航空線での付加価値税免除や業務用車両の自動車税免除など、運輸部門における補助金(フランス、ドイツ、日本など)
以上のベスト政策、ワースト政策の分析から、本報告書は4つの結論を出している。
- 各国政府にとって、気候変動対策と経済促進を組み合わせて行うチャンスは幅広い。
- ほぼすべての政策に改善できる余地がある。
- ワースト政策を変えれば、大きな利益が見込まれる。
- 政策の統合と長期的な予測が不可欠である。
- <図1>