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日刊 温暖化新聞|温暖化REPORT
著者: | Sven Harmeling |
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発行: | ジャーマン・ウォッチ(Germanwatch) http://www.germanwatch.org/ |
発行日: | 2009年12月 |
ページ数: | 20ページ |
入手先: | http://www.germanwatch.org/klima/cri2010.pdf |
- ドイツの再保険会社大手、ミュンヘン再保険会社(ミューニックリー)の評価データに基づき、世界の国々がこれまでに受けてきた気象関連の災害(暴風雨、洪水、熱波など)の影響を分析し、今後に備えてコペンハーゲン会議への提言をまとめたもの。分析は、1990年から2008年で最も大きな被害を被った国10カ国(すべて貧困国)に焦点を当てる。
- ジャーマン・ウォッチ(Germanwatch):1991年の設立以来、世界の平等と人々の暮らしの保護を目的に「監視する、分析する、行動する」をモットーに活動するドイツの環境NGO。
概要
『Global Climate Risk Index(世界の気候危機インデックス)』と名づけられた本レポートは、異常気象の影響に関する最も信頼性の高いデータに基づき、社会経済データと関連づけて分析したものである。あくまでも過去のデータに基づいた分析であり、今後の予測は示していないが、本レポートは、各国が今後さらに深刻さを増す異常気象に備えるための警告として、各国の異常気象の危険度と脆弱度を示す。
分析は、海面上昇や氷の融解などの現象を除き、異常気象(暴風雨、洪水、極端な気温、熱波、寒波など)のみに絞った。対象期間は、2008年と、1990年から2008年までで、対象国は国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の加盟国。各国のスコア算出は4つの指数に基づいた。4つの指標と各指標の割合は、「死亡者数」(1/6)、「人口10万人当たりの死亡者数」(1/3)、「購買力平価(PPP:purchasing power parity)による総損失額(米ドル)」(1/6)、「国内総生産(GDP)1単位当たりの損失額」(1/3)。
第1章では、気候リスク指標の主な分析結果を詳説し、コペンハーゲンへの提言をまとめる。
1990~2008年に世界全体で発生した異常気象は11,000件を超え、直接的な影響による死者は60万人、損失額は1兆7,000億米ドル(約153兆円)にのぼった。
最も被害を被った順に国をランク付けした結果を地図で示したものが図1である。異常気象によって最も大きな被害を被った国は、バングラデシュで、次いでミャンマー、ホンジュラスであった。最も被害を被った10カ国(表1)はいずれも低所得国もしくは低中所得国であることから、貧しい途上国が異常気象により大きな打撃を受けることが多いことが読み取れる。また、気候変動の責任が最も小さい途上国の被害が大きいことを認識する必要があると指摘している。
この10カ国は、継続的に異常気象の脅威にさらされているグループと、例外的な大災害に遭ったために上位となったグループの2つに分けられる。ミャンマーとホンジュラスはいずれも後者のほうで、一度の大型暴風雨によって壊滅的な被害を出した。一方、バングラデシュでは1991年の大災害で全体の8割以上に相当する14万人の死者を出した後にも異常気象が頻発している。しかし、それ以降、1991年を超える被害が出ていないのは、「気候の危機に対する備えを向上させれば、大規模な災害は防げる」ということの一つの証明である。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第4次評価報告書は、「海面上昇や氷河の融解など気候変動の深刻な危機とともに、これまでのところ予想以上に速いペースで気温が上昇し、異常気象の危機が高まりつつある」と示している。さらに最新の科学報告書では、次の3点がまとめられている。
- 異常な暑さの増加と異常な寒さの減少は続いており、この状況は今後さらに拡大すると予測される。
- 人間由来の気候変動は、さらに極端な降水の多発につながると予測される。豪雨の増加と干ばつの増加も予測される。
- 現時点では、今後の熱帯性低気圧の活動変化をモデル化することはできないが、観測データの最新分析では、熱帯海洋の気温上昇に伴い、熱帯性低気圧がここ30年で激化していることが実証されている。
ここには、「既に異常気象の深刻な影響が見られる上述した国々は、特に上記3点のようなタイプの気候の危機にさらされる国でもある」という、ある程度の類似性が見られる。
本レポートでは、コペンハーゲンでの気候サミットに以下の意欲的な適応策の枠組みを盛り込むことで、特に危機にさらされている国の状況を変えることができると提案する。
- 脆弱な途上国に対して財政、技術支援の大幅な拡大(少なくとも2桁増)を図る。ただし、今のODAの公約と、最も脆弱な人々と地域共同体のニーズを優先することに加え、確実で継続的な資金フローのもとで行う。
- 短期の財政支援(2010~2012年)を行い、最も緊急な適応策(災害の備えを含む)を実施し、国々の包括的な対応能力を開発する。
- 地域間や国際間で資金を集める保険プールの制度を確立、促進し、脆弱な国々が気候関連の大規模な災害による打撃をうまく処理できるよう助ける。
- 途上国を支援するための組織の配置を進める。例えば、地域のセンター、UNFCCCのもとで適応技術を話し合う委員会、適応策のための補助機関などを設置する。
- 気候変動による避けられない損失や被害の処理手段を開発するための明確なプロセスを開始する。
第2章では、2008年の異常気象による被害の分析結果を踏まえ、1990~2008年の間に発生した異常気象災害との関連性を述べるほか、世界銀行が所得ごとに分類した国別グループを比較する。
2008年に異常気象の大きな被害を受けた国は順にミャンマー、イエメン共和国、ベトナム、フィリピン(表2)であった。ベトナムとフィリピンは比較的、定期的に暴風雨や洪水の被害を受ける国である。一方、ミャンマーとイエメンの被害の大きさは前代未聞であった。ミャンマーの膨大な死者の数はサイクロン・ナルギスによるもので、この国の災害に対する適応能力の低さを浮き彫りにした。またこれは、政府が災害への備えに本気で着手していなかった結果でもある。
2008年は、世界全体で654件の異常気象が記録され、死亡者数は約93,700人、損失額は1,230億米ドル(11兆700億円)にのぼった。2008年は比較的過酷な年だったといえる。1990年以来、確認された被害件数と同様、死亡者数も2番目に高い数字を記録した。
続けて本レポートでは、2008年を分析するにあたり、「継続的に異常気象に直面する国々と、例外的な異常気象が大規模な被害をもたらし、何千もの死者を出す国々とは区別しなければならない」とし、1990~2008年の間に発生した異常気象との関連性も見る。
同期間における最も被害を被った10カ国を深く分析すると、ミャンマーとニカラグアでは1年だけで全体の9割を超える死亡者数を記録したことがわかる。また、異常気象が最も頻発した国には、中国、インド、バングラデシュ、フィリピンが挙げられるが、これは国の規模が大きいことや特有な形で異常気象を受けることが原因の一部である。
さらに、「国別グループで異常気象に関連した影響を比較することは、本レポートにおける各国の特有性を完璧に分析するのに役立つ」とし、世界銀行の所得分類に基づいた国別グループで、1990~2008年の異常気象に関連した影響を比べている(図2)。
それによると、国の所得により被害も異なるという構図が読み取れる。異常気象による死亡者数を見ると、低所得国では貧困層の脆弱性がひときわ高い。高所得国の死亡者数が多いことは意外だが、この数字の大部分は2003年に欧州諸国全体で7万人を超える死者を出した熱波によるものである。また、先進諸国では富裕層と貧困層の格差が拡大しているため、異常気象の影響を受けやすい人も増加している。
損失額を相対的に見ると、低中所得国が最も大きく、低所得国と高所得国の差はほとんどない。一方で、絶対的な損失額は、高所得国で最も高い。これは、ほかと比べてはるかに資産価値の高いものが失われる可能性があるためであり、またハリケーン・カトリーナのような異常気象が米国に甚大な損失をもたらしたためである。
また、この図について、低所得国はインフォーマル部門で多くの価値を生み出しているが、GDP統計に含まれていないことも認識しておかなければならないとし、さらに、所有物に資産的な価値がほとんどない貧困層は、特に異常気象の悪影響に苦しんでいると指摘する。
第3章では、本レポートの分析に用いたデータや指標、分析方法について詳しく説明するほか、分析結果の限界についても述べている。